第609話 目的は.7
初め、何と面白味のない人間が召喚されたのかと思った。剣も扱えず、特別な力もなく、魔法も操れない。何の取り柄もない、食料としてしか価値のない人間。
これは早々にそこらの魔物の餌にでもするかと思っていた。
『ははは!!これは愉快だ!! まさかこいつが神の送り込んできた“刺客”なのか!!』
何の力もない人間の中に、なんと“勇者”の魂の気配を感じたのだ。
もっとも封印した石の中にいた他のモノの影響もあってか、魔力も何もかもが変異してしまってはいたが、その気配は間違いなく勇者のものであった。
腹を抱えて笑った。
なんと小さな希望か。
これでは鴨が鍋一式担いできたようなものではないか!!
本当なら魂だけ分離できれば一番よかったのだが、癒着が激しく叶わなかった。
それに、何故かウローダスと使い魔が気に掛けているのを見て、すぐに餌にするのを止めた。
どうせこんな小蟲一匹、いつでもどうにかしてやれるのだ。なら、ウローダスの為に少しの間玩具として与えてやっても良い。
その前に、ちょっと前から城に潜り込みコソコソと嗅ぎ回っていたネズミを捕まえた。
珍しい。南の大陸の生き残りか。
何を探しているのかは大方見当がつく。
エルファラの脱け殻だろう。
残念ながらそれは
ウローダスに命じて捕らえ、無理やり契約を結んで手下にした。
殺されるよりも屈辱だっただろうが、使えるものは使った方が良いだろう。
そうしてそろそろ喰らうかと、事故死に見せ掛けて殺す案が出たとき、想定外の邪魔が入った。
“勇者”の魂が覚醒したのだ。
幸いにも記憶が無く、自分が何者かすら分からないようであったが、中にある悪魔の力を取り込み、奴を守った。
それだけならまだ大丈夫だった。
どれだけ暴走しても、足元にも及ばない力しかない。
なのに、あの使い魔二匹が余計なことをしたのだ。
クローウズ。
あの転移魔法は厄介だ。
行き先を指定していない分どこへ飛ばされるのか分からないが、追っ手を蒔くのにはもってこいのものだった。何せ、転移魔法痕が残らない。
してやられた。そう思ったときには、奴はこのホールデンから姿を消していた。
奴には隷属の首輪を体内に埋め込んだ。このホールデンから一歩でも出れば発動するよう設定してある。
焦った。
どんなに強い魔物もあの隷属の首輪は耐え難い苦痛を与える。直接魔力に干渉し、全ての感覚に痛みが伴う。しかもその痛みは、装着された者の魔力量に比例するのだ。
アイツは勇者の魔力をもっている筈だ。なら、一刻も早く見付け出して連れ戻さねば、狂い死にする。
そうすれば、せっかく手に入った縁がパアだ!
死に物狂いで探した。鷲ノ爪すら使ったが、どんなに探しても見付からず、気付けば半年近くになっていた。
これは、死んでいるな。
剣を振るどころか、剣に振り回される始末で、ようやく会得できたらしい魔法もカスそのもの。生き残れる可能性が限りなくゼロであった。
呆気なく手から滑り落ちた『縁』を半分悔しく思いながら諦め、仕方なくこの世界の観測者と管理人を探すかと着手した時、なんの偶然か、大地の勇者が奴を発見した。
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