第605話 目的は.3

先王の魔力と『管理人認証印』の宝を喰らい、更に権力まで手に入れたゲルダリウスは行動を起こした。


神と拮抗するためには莫大な魔力が必要だ。


管理人認証印の表面から読み取れた情報では、世界には必ず『管理人』ないし、『神』と呼ばれる存在がおり、それらが世界の力を循環させ、安定させる能力を持っている。

ファシール家が討ち滅ぼした元祖魔王がソレだったらしいが、そちらも力を持て余していたに違いない。


そして、『管理人』とは違う、世界に異変が起こっているときに派遣されるという、神からの命令を直接的に受け行動する『観測者』。


どちらも『神』との縁がある。

そのどちらかを喰らえば、神の縁とやらが手に入る。


しかし、とゲルダリウスは考えた。


果たしてこの世界には観測者は居るのだろうかと。


居たとしても、それがどんな者なのかも分からない。

やみくもに探したとしても、見付からないだろう。


『なら、自ら出てくるようにすればいい』


魔界の住人の間で流行る病を止めるには人間を喰らって、魔力を摂取すれば治る、と。そんな風にうまく誘導して戦争を起こした。

実際、本当にそうであったし、皆過去に『勇者』とやらにこっぴどくやられたのを覚えている者もいたから、賛同するものは多かった。


前回封じられた箇所を見に行けば、封印が緩んでいた。

これはいい。

そう思い、他にも緩んでいる所はないかと探させれば、その周辺にいくつもあった。バカな人間め。

嘲笑いながら、戦力を整え、力任せに封印を抉じ開けた。


士気は高く、恨みは強い。


前回の戦争で勇者と共に行動していた者の子孫を見つけ、襲い掛かった。

白髪の、能力を反転させる忌々しい魔法を使う者達だ。

凄まじい抵抗にあったが、数で押しきった。


一人逃したが、まぁ、大した脅威にはならんだろう。


そう思ったのがいけなかった。


『神』とやらの加護を受けた『勇者』が現れたのだ。


勇者は凄まじく強く、戦線を押し戻していった。

前回の女勇者と比べれば理不尽な強さではなかったが、それでも淘汰されるのは十分な強さだ。


このままでは、またしても封印されて終わってしまう。


焦った。

初め、勇者の登場に神の縁が手に入ると喜んだが、そんな余裕はなかった。

何とかして殺そうと、その一歩手前まで追い詰めたのだが、なんと白髪の生き残りが邪魔をして止めをさせなかった。


なんとかしなければ。


そんな時、傀儡であった筈のエルファラが偉そうに口を開いたのだ。






『もう、こんなのはやめにしよう! 奪えば確かに潤うかもしれない。だけど、それは一時のものだ! 根本的な解決にはならない! ここは戦争を中断し、人間側と交渉するべきだ! 魔族の命を、こんな粗末にしてはならない!!』







腹が立った。



元はと言えば、お前らの一族が管理人を殺して起きた悲劇だろうに。このあまりにも幼く頭がお花畑の王は、気持ち悪くなるほどに甘い考えしか口にできないらしい。



こんな愚王に、俺の計画の邪魔をされてはならない。





『王、エルファラ様。貴方の意見は必要ないのですよ』


『なにを…』






部下に押さえられているエルファラは、本当になんの力もない子供だった。

子供は大人の言うことを素直に聞くものだ。

お前の意見はいらない。


そうだ。


余計なことを考えるな。






『貴方は大人しく玉座に座っている人形でありなさい』








エルファラの、己の意思で体を動かすための魔力を狂わせた。


本当は記憶ごと喰らってやりたかったが、せっかくだ。

利用させてもらう。




ウローダスとは違うものの、ゲルダリウスの操り人形となったエルファラを餌にした。

チヴァヘナが欲しいと駄々を捏ねたが、許可はしなかった。全てが終わったあとに譲る約束はしたが。生憎チヴァヘナの死体集めには共感できない。


そして戦争後半。

なんとか勇者と仲間を魔界に誘き寄せる事に成功し、城へと誘き寄せた。

途中、コウマ派の連中に接触したが、その他は計画通りになった。


俺とチヴァヘナはうまく生き延び、他の部下は全滅。

そして。



『よく来た、勇者』


「…、お前が元凶か…。悪いけど、ここでお前を倒させてもらう!」



最終決戦という言葉がピッタリな、見事な戦闘だった。

操り人形状態のエルファラと、憐れな勇者の一騎討ちは、それはそれは見事な舞台だった。


通常のエルファラでも、果たしてここまで舞うことができたか。


最期は、魔王は勇者に倒されめでたしめでたし。

倒した魔王の瞳を、勇者が閉じてやったのは少し気に触ったが。



勇者が去り、倒された魔王を見やる。

まだかすかに息があった。









『  残念ですよ、エルファラ・ファシール様 ここで貴方の出番は終わりです  』









後は簡単だった。

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