第604話 目的は.2
長い長い、時間を掛けた作戦だった。
ケルベロス族は元々、先王の七人の部下だったから近付くことは容易かった。
優秀だった俺は先王に絶対の信頼を置かれていた。
すべての情報は俺へと流れ、多少口を出すことも、それとなく先王を諫めることもできる地位に上り詰めた。
右腕、というやつだ。
そこで弱点を探った。
いくら魔界で最強の存在とはいえ、弱点がない訳じゃない。
それに、その頃は魔界が荒れに荒れていて、悪魔の派閥が三つに別れて対立し、衰退が始まっていた。
国の君主は焦っていた。
常に最強の存在で、だからこそ、その存在定義が揺らぐのを恐れていた。
存在定義が揺らぐということは、暗殺の危険が増すということ。
力が絶対の魔界では、力が弱ければ淘汰される。
だが、先王は地位よりも大事なものがあった。
王の一人息子、“エルファラ”だ。
子を沢山成さなければならなかった先王だったが、魔界の異変の影響もあって一人しか育たなかった。
エルファラが死ねば、殺されればファシール家は終わる。
それの危機感もあって、先王は“王位継承”の方に意識を向けていた。
だから、こんな近くに裏切り者がいるとは思いもしなかったのだろう。
チヴァヘナと組み、まずは先王のお世話係であったウローダスを壊した。
低級悪魔だったが、手先が器用で、先王に逆らうことのできない弱さ、そして先立たれた最愛の妻に似ているという点で気に入れられ、エルファラの乳母代わりで置いていた。
そんなウローダスがチヴァヘナの能力をまともに浴びて正気でいられる筈がなかった。
壊れたウローダスはゲルダリウスとチヴァヘナに順丈になり、エルファラや先王前では普通に振る舞いながらも少しずつ隙を作っていった。
そして、先王を殺した。
白躯病に仕立て上げれば、疑われることもない。
元々その気はあったのだ。
最も止めで全ての能力、魔力を食らったのはゲルダリウスだったが。
通常であれば、王位の譲渡で先王の知識や魔力を分け与えられる儀が行われる筈だったのが、それを行う前に先王が崩御した為、エルファラはまっさらな状態で王位の地位に押し上げられた。
もちろん幼い子供の王がまともな政を行える筈もない。
よって、全ての権限がゲルダリウスを通すこととなった。
本当ならばすぐさまエルファラも洗脳しようとしたのだが、ウローダスは壊れながらもエルファラを守った。喜劇を見ているようで面白かった。
壊れた頭で正気の様に振る舞い、エルファラを慰め、励まし、時に激を入れていた。
だが、それだけだ。
最終的な決定をもたらすのはエルファラの言葉だが、幼いエルファラは何を決定しているのかさえ理解していないだろう。
好きに動けるようになってからは全てが順調であった。
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