第603話 目的は.1

そろそろか、と、ゲルダリウスが言う。


ここは王の間。といっても既にホールデンの王の間ではなく、魔界の城の王の間へと切り替わってしまっているが。そしてそれすらも魔法で改造を重ね、目には見えない結界を利用して広大な広さを持たせていた。


最終決戦に備えてだ。


準備は既に終えている。

今は光彩魔法で写し出された映像で、タイミングを図るのみとなっていた。


『……一応は、順調って言っていいのかしら?』


チヴァヘナが訊ねると、ゲルダリウスが『ああ』と返した。


『多少の想定外はあったが、まだ当初の目的には何の影響もない。もう一つの作戦の長い時間をかけて作った魔方陣が解除されたのはムカついたが』


しかしあれも“ついでに”作ったものだ。

あればよし。なければないでどうにでもなる。

人間にとっての一番の脅威だからかよく食らいついてくれたが、それすらも別に無くてもいいものだ。


『奴がここに一人で来れば目的は達成される。カードはもう揃っているんだ。失敗する筈もない』


口許に笑みを浮かべながら玉座を見上げる。


そこにはウローダスと、玉座に収まっている小さな主君がいた。


僅かに開かれた目は虚ろで、何も写してはいないのに、ウローダスはしきりに主君の様子を伺い、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

思わず笑い出しそうになるのをゲルダリウスとチヴァヘナは耐えた。


憐れな憐れなウローダス。


魂のない肉の塊を愛で、彼の勇者の中にある魂を取り戻せば甦り、元に戻ると信じている。

確かに、甦らすことは可能だ。だが、そんなことはさせない。


エルファラの魂が戻り次第、俺が勇者もろとも喰う予定だ。








ゲルダリウスはケルベロス族だ。

その能力は暴食で、何でも食べることができ、己のものにすることができる。悪魔は食べたものの魔力や能力を奪うことができるが、ケルベロスは奪うことができる能力が桁違いであった。


通常、奪うと言っても、どんなに取り込めても能力の一部


特にゲルダリウスは優秀で、魂さえ喰らい尽くせた。



今、ゲルダリウスの中には先代魔王の魂が、とある宝と共に眠っている。

宝の名は《管理人認証印》というものだ。



かつて、まだ先王が生きていた頃、歴代の宝だと、見せてもらったときに大層驚いた。


表面から溢れ出る魔力を読み取るだけでも、それがとんでもない宝だという事はわかった。先王は遥か昔、我々一族がかつて魔界の全てを我が物顔で統治していた覇王から奪っい取ったものだと自慢していたが、とんだ宝の持ち腐れであった。


これは、神とかいう高次元の存在に近付けるものだ。


だが、それには神との縁が必要なのがわかった。

この魔王は神との縁がない。本来の機能が発揮されない。

つまり、この魔王には不要なものだ。

扱いきれない宝など、とっていても意味がない。


その時、ふと、とあることを思い付いた。


これを取り込み、神との縁とやらを利用できれば、




俺は神と等しい存在になれる




と。


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