第574話 第二の門番.2

『こっちこっち!!』


辛うじて見えるらしいネコに先導されて走る。

だが、流石はゴキブリ足が早い。


「せいや!!!」


危うく追い付かれそうになったところをオレの氷結にて地面をゴキブリごと凍らせて足止め。


そういえば、寒くなればなるほど虫って動かなくなるよな。

オレとキリコ、アウソの羅刹メンバーはゴキブリが平気である。とはいえ流石に地面真っ黒なゴキブリは勘弁だが。その為殿しんがり的な意味で皆の後方にてゴキブリを対処しながら進んでいる。


キリコは飛んでくるものを次々に気配だけで打ち落とし、アウソは海水で流し、オレは凍らすか感電させる。


何せ見えないから、殆ど感覚頼り。粒子の目でなんとなく蠢くものの流れが分かるくらいだ。


それにしても、海水凍らせにくい。

めっちゃ頑張らないと凍らないから電撃に切り替えたりしているんだが、手加減間違えるとゴキブリが焦げるから操作が大変。


「お、水の匂い?」


海水とは違う、甘い匂いだ。


風の目で見れば、風の帯が前方へと向かって流れている。

出口だ。















視界が開ける。





光が差し込んでくると、ゴキブリの群れは進行を止め、引き返していく。光が苦手なのか?




「うっっわ…」



ニックの昨日の引き吊るような声。


最後の一匹まで暗闇に引き返していくのを確認してから振り返った。



ブンブンと大きな羽虫が飛んでいる。それが突然動きが止まり、もがいているうちにどんどんと白いものに絡まって団子になっていた。


大きな木の枝が縦横無尽に伸び、その間を無数の蜘蛛の巣が張っていた。日の光が蜘蛛の巣にとらえられた水滴に反射してキラキラと輝いている。


遥か下では水の音がする。


パッと見は綺麗な光景の筈であった。だが、ライハにとってはそうではなかった。



一面蜘蛛の巣の部屋。



それだけで血の気が引いていった。



オレは蜘蛛大の苦手だ。


よく見なくても、手のひらサイズのがカサカサとあちらこちらにいる。


頭が理解する前に既に体が硬直していた。


『ライハ?』


ネコがオレの異変に気付いて声を掛けたが、返答する余裕もない。

ゴキブリがいなくなった為、ようやく結界を解いたシラギクがオレの様子でハッとした顔をしていた。


(ライハさん。貴方はこれが駄目なんですね)

(そうなんです。助けてください)


口に出さずともアイコンタクトのみでシラギクと会話が成立した。思わず助けを求めると「ごめんなさい」と謝罪が返された。ガッデム!!


嫌な予感はこれの事か!!!


「むりむりむりむり」


「無理じゃない、いくぞほら!」


ニックから強い言葉が飛んでくる。

このシラギクとの対応の差よ。


「…だー、掴んどけ」


とはいえこんなところで立ち往生は出来ないのは分かってるのだが、いかせん足がすくんで動けない。

アウソが対応策として腰帯を握ってろと手渡してきた。優しいな、ほんと。つか、ルキオ虫天国だからなのかどっちも平気なんだな。


壊れたロボットのような動きであるが、アウソに引かれて歩き始めた。


何故か蜘蛛の巣の構造に詳しいニックの先導のもと、獲物が引っ掛からない粘着性の低い糸を選んで渡っていく。

蜘蛛の巣がとんでもなくデカイ。羽虫が人間と背丈が同じほどだから、それを捕まえる為なのだろうが、ひとつの巣の糸が綱引きの綱3本分ほどはある。 

なのに粘着性の高い糸はタコ糸程しかなく、容易に破壊できそうなのだが、先程羽虫が身をもって恐ろしさを教えてくれたので全力で回避した。


コツコツと糸にしては硬すぎる音を立てながら、枝と枝の間を進んでいく。



悪魔の姿は、まだない。



『……ああ、そういえば蜘蛛駄目なんだっけ?』



もうすぐ隣の枝に辿り着くというところでネコがオレの蜘蛛嫌いを思い出した。


「あんなん虫だろでかいのは流石に引くけどよ」


とノルベルト。


「ゴキブリにビビってた人に言われたく無いんですけどー」


「俺はびびってねーよ、…でも…そうか。あいつも虫か…そうか…」


ゴキブリ嫌いにとって、ゴキブリは虫ではなく違うモノにでも見えているのだろうか?


「!? 危ない!!」


「げっはぁ!?」


突如キリコの蹴りによって横にぶっ飛ぶノルベルト。


なんだとそちらを向けば、魔力探知に攻撃が引っ掛かり、ノルベルトがいたところへと突き刺さった。


まるで鉄骨でも突き刺さったかのような轟音と共に糸が突き刺さった。その衝撃により、足場にしていた糸が激しくたゆみ、千切れ、大きく跳ね上がった。

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