第547話 反撃を.4

逃げられた。逃げられてしまった。


「あー、くそ。少女盾にするんは卑怯やわ…」


咳き込みながらレーニォが立ち上がる。脇腹を押さえ、口元には血が滲んでいるところを見るや、呼吸器系がやられたのか?


粒子の目で見ても、流れがおかしくなったところはない。とすると、口の中を切っただけか。頑丈だな。


「助けてくれー、脚折られたー」


しかし、至近距離でチヴァヘナの能力を直で喰らったノルベルトが負傷をしていた。吹っ飛ばずに地面に叩き付けられたから、衝撃を逃せなかったか。


「はいはい。ちっと待っとけ。ライハ、回復魔法札とか持ってんか?」


「はいどうぞ」


「グルァシアス、て、多いな」


最近使い所の無い魔方陣札の束をそのまま渡した。


「使ってないんだ、使ってやってくれ」


「んじゃありがたく」


レーニォが瓦礫にめり込んでいるノルベルトを助け出しているのを見ながら、頭をガシガシと掻いた。王手、と思ったんだけどな。


先程のウロの魔法を使う瞬間を思い出す。


あれはどう見ても魔法ではなかった。

どちからというと、コンピューターウイルスみたいなのが無理やりシステムを書き替えたかのような異質なものだった。


『ごめん、逃がした』


耳をしょんぼりと下げてネコが戻ってくる。

ネコの頭を撫でながら持ち上げる。


「いいさ、オレも予想外だったんだ。それより、ネコ」


『ん?』


こてんと首を傾ける。


「ウロの様子がおかしいとき、どっかで聞いたことのある声だったのか?」


『…あ、えーと。うん、多分』


「何処か思い出せるか?」


しばらく考え込み、ネコは口を開いた。


『……天使、だと思う』


「天使? “遣い”とかじゃなく?」


『うん。あのね、ネコが、多分これは昔、勇者だった頃の記憶だと思うんだけど、神様の側にいつもいた羽の生えた人がいて、その人の話し方とそっくりだったって、話なんだけど…』


なんで天使がこんなことをするんだ。

神は味方ではないのか?


神から流された過去の記録を思い出してみて、うっすらと確かに神の隣に人がいたのは分かったが、それでもなんでそれがウロとなって敵対しているのかが理解できない。


「!」


ブルブルと小さく振動を感じた。

なんだ?と、ネコを下ろし、振動しているものを取り出す。放置しまくって存在自体を忘れかけていた、オレのスマホであった。


最近あまりにも見ないものだから神からメール自体届かなくなってたのだが。


恐る恐る、うろ覚えのパスワードを入力して届いている最新メールに目を通した。






「……どうりで」





そこには、何故ウロが魔法を封じても魔法のようなものを使える訳が、そもそも何故ウロが今の“ウロ”となったのかを詳細に説明されていた。


文末には、巻き込んでしまったのは本当に申し訳なかったと思っている。ごめんなさい。


と、あった。


確かに、始まりは神だったのだろうけれど、途方もなく孤独な戦いは想像を絶するほど辛いものだっただろう。


ネコを見る。


こいつも、記憶を失ってるだけで、神と同じようにずっと孤独だった。


オレがここで終わらせないとな。
















レーニォ達の案内のもと、カリア達の所へと戻ったのだが。


「…カリアさん!?」


片腕が無いカリアがぐったりとザラキの側で横になっていた。

まさか!


と、血の気が引きつつ視線をキリコに向けると、一瞬チラリとこちらを確認してこう言った。


「大丈夫、生きてるわよ」


ホッと息を吐く。


「でも、此処で戦線離脱ね。最後まで付き合えないのは、師匠として残念よ、と、言いそうだけど」


「…カリアさんなら言いそうだ」


というか、そっくりで吃驚した。


「あの火の鳥を一人で何とかしたんさ。むしろ生きていてくれて感謝もんだばーて」


と、後ろからびしょびしょに濡れたアウソがやって来た。この場違い感凄い。

というより何だか容姿が少し変わってないか?なんだその額と両手脚のタトゥー。鱗を象ったようなモノが浮き上がっている。それに槍がゴツくなってる。むしろ槍なの?って感じだ。


「なんで濡れてんの?」


一応質問してみた。


「色々あってな」


流された。


ネコが濡れるのを避けてか、アウソを避けてフードに避難するのを見て、若干ショックを受けていた。


「みんな生きてるー?」


遠くからズタボロになっているカミーユと、護衛に付いていたと思われるユイとナリータも戻ってきた。


これで全員か。



『くそっ!離せ!!離せ!!』


「ん?」


いや、もう一人。違うな、一頭いた。


『生き残りを捕獲したぞ。褒めてくれ』


誰よりも一番ボロボロのグレイダンが、フォルテを咥えてやって来た。

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