第546話 反撃を.3

ふむ、と、何かを納得したようなウロ。

ネコのビームが直撃した腕の部分の服が裂け、赤く爛れていた。ウロを守っていた結界が外れている。


「先程から虫が一匹姿を隠してこそこそしていると思ったら、こういうことでしたか」


思わず笑みが溢れる。

うまくいった。


陽動だ。


此処で大規模な戦闘を起こして、悪魔を呼び寄せる。そして、座標を固定し、閉じ込める。

核は、地下にいるシラギクだ。元々強力な結界を張れるシラギクは地下道を魔力の道として使い、罠を仕掛ける。


リオンスシャーレ戦で使った、横ではなく、縦の魔方陣だ。


それを地下道を用いて巨大な意識反らしの魔方陣を作り、その水面下にて全ての道で展開。だが、そんなの、勿論一人でできるはずもない。


カミーユがそれに神聖属性魔法を魔法具を使って地上に配置。ユイ、ノルベルト、ナリータの三人でカミーユを守りつつ配置するのは骨が折れただろう。

そして、遅れてきたギリスの魔術師達が、更にホールデンを囲うように印をつけると、煌和の人達がそれを起点に魔力の流れを安定させ、シラギクの結界をバックアップ。


まぁ、このような苦労を経て、直径数キロにもなる網目状の立方体の魔方陣による不可視の檻が完成した。


それを維持しつつタイミングを計り、ニックの詠唱にてシェルムとデアが伝達し、地面に埋まった魔方陣を浮上させた。

そして、止めとばかりにシェルムが魔法を発動。

重力の属性魔法にて、結界を強化したのだ。


今、悪魔の魔法は発動できない。

できたとしても、その効果は初期のオレの魔法並みに下がってる。


ふ、オレも暴食の主持ってなかったら固定対象だったし、割りと賭けだったからドキドキだったがな。


「…悪魔…か?」


ノルベルトが疑念の声。

気持ちはわかる。


何せウロには角がない。そして、瞳もオッドアイで、気配も異質だ。


だが。


「はんっ、悪魔? そんな角イコール悪魔なんて思ってたらすぐやられるで。見ぃ、あの手。いくら美人ベッラでも、女の子あんな髪引っ付かんで引き摺ってるような奴は、俺にとっては敵や」


「……」


確かラビも同じような事をちょいちょい言ってたな。

血は繋がってなくても、兄弟だなぁと思った。


「計画も死に損ないのせいで大きく狂いました。ですが、多少は遅れますが、いずれは時間切れで解けるでしょう。その時に合わせて調整すれば良いのです」


「その前に、全部終わらせたるわ!!」


「レーニォさん!」


ハルバートを振り上げる。

ウロはそれを無表情で見ている。


だが、不意に視線が揺れた。


「はっ!レーニォさん!ストップ!!」


「!?」


振り下ろした刃とウロの間に人影が割り込んだ。いや、ウロがコノンを持ち上げ盾にした。


「ぐっ!」


無理に軌道を反らす。刃は、コノンの髪を斬り、ウロの服を斬り、地面へと突き刺さった。

ホッと息を吐く、だが、次の瞬間、レーニォの脇腹に蹴りが突き刺さった。


吹っ飛んできたレーニォを受け止めた。


「げほっ、う…」


「ちっ、魔法がなくてもこれか」


レーニォを蹴り飛ばした存在を見る。

それは、チヴァヘナだった。


やはり、悪魔は素の身体能力からして違うらしい。

だが、息が上がっている。効いてないわけではない。


『…ウロ、いけるわよね!やりなさい!!』


何を、と、言う前にウロが口を開いた。


「はい…、────」


「!」


ぶわりと何かの気配かウロから溢れ出た。

魔力ではない。だが、何かを書き換える程の力だ。


『!! ライハ!逃げられるよ!!』


「なに!?」


ネコの言葉にウロを見れば、コードのようなモノが浮かび上がり激しく点滅。そして、姿がぶれた。


まさか、魔法を封じているはずなのに。

そこで思い出した。


そうだ。ウロは純粋な悪魔ではない。


「はああ!!」


ノルベルトがチヴァヘナとウロに向かって攻撃を仕掛けるが、チヴァヘナは足一本で大剣をいなす。

そして。


「がはっ!」


突如、ノルベルトが巨人の手によって押さえ付けられたかのように地面に縫い付けられた。その背中へチヴァヘナのヒールが迫る。


「ネコ!コノンを!」


射った雷の矢が、チヴァヘナの攻撃を逸らして地面に深々と突き刺さった。ゾッとする。


ネコの尾が、ウロの近くまで迫ったとき、ぐわんと地面が揺れた。

空気が、重い。体が、動かない




「ライハ様、それではまたお城で会いましょう。核はまだ残ってますよ、敵も、私ならまだたくさん喚べます。きちんと止めたかったら、ノアが死ぬ前に、私を倒す事ですね」




手を伸ばす。





「ま…て、ウロ…」





声が、出ない。空間が捻られて、引き伸ばされているかのようだ。









「それでは」








ぶん、と、音を立てて三人の姿が消えた。






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