第548話 反撃を.5

翼は無惨にも千切れ、もはや刺を出すだけの魔力もないらしく、手足をバタバタさせているがそれすらも無くなってきた。


「……」


正直殴り飛ばしたい。

こいつがオレの大事な大事な仲間とラビを殺したのだ。


「………こいつか?お前の仇は」


それを察したらしいニック。


「…………ああ。こいつがオレの部隊の皆とラビを殺した張本人だ」


あの時の憎しみが溢れ出す。憎くて憎くて堪らない。

オレは出来た人間でもなければ仏でもない、そして、残念ながら大切な人達を殺した奴を許してやれるほど優しくはないのだ。


殺気が溢れる。抑えるなんて無理だ。


それに気付いたフォルテがオレを見てビクリと体を固まらせた。


剣を抜く。


今すぐにでも首を飛ばしてやりたいが、その前にやるべきことがある。


「お前の残った味方を教えろ」


人相も多分凶悪だろうし、声も怒鳴り付けたいのを押さえているんで掠れているが、今はどうだって良い。


「あと、オレの仲間の体は何処にある」


そこで、レーニォからひゅっと息を飲む音がした。


突き付けた切っ先から、ごくりと唾を飲む動きが伝わってくる。


『…それを、俺が言うと思うのか?』


探るような目。


『どうせお前らなんてサラドラになぶり殺されるだけ──』

「お前の言う火の鳥は死んだ」


『なに?』


ザラキをフォルテが見る。


『ふん、そんな嘘に引っ掛かるとでも?』


「火の鳥といえど、弱点がない訳じゃない。嘘だと思うなら思えば良いさ。いくら待ったところで現れはしないが」


『…………』


嘘ではないと感じ取ったようだ。余裕のある顔はみるみるうちに焦りが滲み、オレを見る。


『…条件がある。それを言えば、命は助けると約束してくれるなら話してやっても良い』


「そうか、ならこちらからも条件だ。全てを話し、その後誰にも危害を加えないと誓うなら命は助けてやる。たが、違えれば即、斬る」


憎い奴だが、チャンスは与えようかと思う。

更正のチャンスだ。


一度きり。二度目はない。


「なんでや!!そいつ仇やろ!?」


レーニォを手で制す。


『よし、分かった。なら、まず俺を解放してくれ。そうしたら話す』


「信用できない。解放するなら全てを話した後だ」


フォルテの目が泳ぐ。そして、諦めた様に体の力を抜いた。


『…ふん。今さら俺を見捨てたやつらを守ってもしかたねーよな…。


…城の中にいるのは、蔦の使い魔を寄生させた人間と、取り込んだ勇者二匹。そして、サキュバス族のチヴァヘナと、ケルベロスのゲルダリウス。そして、アスタロトのウローダス。この三体は絶対に貴様らに殺られるような連中ではない。魔界の他の王でさえ、蹂躙した力の持ち主だ。手下も多い。苦戦するだろう。


…そして、お前の仲間はチヴァヘナにやった。きっと飾り付けられて、保管庫の中だ。アイツは美しい男を集める趣味があるからな。城の中は何重にもこちらと彼方がまたがって、曖昧だ。城の最奥はほぼ向こうの世界で、人間が立ち入ればすぐに息絶える。行けるとするなら、』


フォルテの口許に微かな笑み。


『ほとんど我らと同じ体の、貴様くらいだろうな』


皮肉だ。


まさか、この体が言葉通りの、地獄への片道切符となるとはな。


剣を下げる。


「貴重な情報、ありがたく使わせてもらうよ」














少し離れたところで、グレイダンに頼んで解放して貰う。

そして、少し下がらせた。


かなり渋っていたが、状況は満たした。なら、こちらも守らねば。


だが、きっと──



『へ、本当に守るとは』


「ニックに頼んで、人に危害を加えそうになれば発動する魔法を掛けて貰った。守れよ」



オレの手には、その魔法の核とした石を持っている。

ニック曰く、危害を加えそうになれば、それを関知して持ち主に伝え、発動させる事が出来るのだと言う。



『へいへい』



皆が警戒しつつも遠くから見守っている。

ネコも、いつでも動ける様にはしている。信用はしてないから。



「じゃあな」



フォルテに背を向けた。


このまま、何もなければ良い。























『馬鹿め!悪魔が約束を守るわけねぇだろ!!!』













だが、きっと、こうなる事は解っていた。





「だろうと思った…」





だからこそ、オレはこうなる事は解っていたから、敢えて取引をした。

情報は得た。

オレが与えたチャンスを相手は捨てた。

なら、何を躊躇することがあろう?





斎主が熱く、手に吸い付いてくる。


振るえ。














どん、と、小さいモノが少し離れた所に落ち、次いで一部が欠損した体が地面へと倒れた。





「…仇は、一応取れたかな」




転がった骸を一瞥し、オレは踵を返した。

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