第534話 総力戦、開始.20
フォルテがギリギリで回避した場所に次々に火炎弾が被弾する。
次の瞬間、地面が火の海と化した。
ニックが慌てて結界を張るも追い付けていない。
炎に巻かれている。
放った竜達が慌てふためくがどうすることもできず、その隙にと竜達に攻撃を仕掛けて一体が呆気なく落下した。
遠くから水の塊が飛んでくるが、それをザラキによってあちこち欠けさせられたゴーレムが盾となって防いでいた。
アレックスが弾を撃って威力を弱めようとしているのが見えたが、その風が仇となり、居場所が知られたらしい。火だるまとなったゾンビが襲い掛かっていく。
ライハは何処にいるのか分からないが、このままだと全滅してしまう。
だが、自分の領域としてコントロール可能な水を下に割けば更に勝機が減ってしまう。
アウソは悩んだ。
見捨てるわけにはいかない。だけども、この選択をすれば、王が。
『何をしている』
エノシガイオスの声が降ってきた。
見上げれば、エノシガイオスの責めるような顔だ。
『同士の危機に何を迷うことがある』
それはつまり、自分の事は気にするなということ。
その後どんなに大変になろうとも、構わないと、王が許可を出した。
「感謝します!王!」
アウソはすぐさま水を地上へと落とした。
必要な量を、必要な範囲内に落として火を消す。
たかがこれだけのことなのに、とても難しい。
それをアウソは短時間の間に導きだし、雨として降り注いだ。
じゅうじゅうと音を立てて炎の威力が弱まると、ニックの結界が追い付き皆を炎の中から拾い上げた。だが、やはり炎に巻かれたから怪我人が出ている。
特に、普段は神具の保護で守られていたアレックスが普段との違いに加減を間違え、大火傷を負っていた。
それでもまだニックが近くにいたからすぐさま治療されていた。
ほっと息を吐く。
死人は出てない。
『アウソ、後ろへ回れ。魔力の回復をしろ』
エノシガイオスの指示で、状況を確認しつつ移動をしようとすると、アウソはようやくエノシガイオスの状況を知った。
エノシガイオスに突き刺さる槍。
いや、これは刺か。
アウソの指示に従い動いた水は、エノシガイオスの盾を薄くした。それを見抜いたクスラが尾の刺を鋭く伸ばし、エノシガイオスへと叩き付けたのだ。
ガンガゼのように長く鋭い刺は、咄嗟に張った水の盾を易々と砕き、エノシガイオスの胴へと突き刺さる。
肩に一つ、脇腹に一つ、尾に一つ。
急所は逸れてはいたが、その刺は間違いなくエノシガイオスの体力を削っていた。
アウソは青ざめた。
やはりと、思った。
だが、王は何事もないとばかりに刺を引き抜きクスラへと突撃していった。
打ち合うトリアイナ。重い衝撃波を放ちながら、魔力が含まれた水が減ったことにより力が減りながらも、エノシガイオスは攻めていった。
アウソは早く魔力を回復して加勢しなければと思うが、元々魔力の扱いに慣れてない身では、どうしても時間が掛かる。
そうしているうちに、だんだんとエノシガイオスが押されていく。
まずい。
『はははは!!!見捨てればこんなにも弱くなることはなかったのに、良くない意地を張ったな!エノシガイオス!!』
『もとより見捨てるという選択はない。全てを切り捨てて勝っても面白くないだろう?』
『そうか、そういうやつだったな!では最後までその意地を張って死ぬがよいわ!!』
ギョロリとクスラの目がこちらを向いた。
また威圧を掛けるつもりか。
すかさず速水でクスラの顔面近くへと移動すると、槍を振りかぶり狙いを絞った。
目だ。
あの目が厄介だ。
視線はまだ己がいた場所へと向けられていた。
速水を使うと、先程までいた場所に僅かな時間泡と残像が停滞する。囮と気付くまではこちらに意識がいくはずもない。
潰せる、と思った。
だが。
『お前も甘いな』
「?」
ゾワリと左側に鳥肌が立った。
思わず左へと視線を向け、思考が停止した。
真っ暗な、闇がアウソを飲み込もうとすぐ目の前に迫っていた。
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