第535話 総力戦、開始.21

やばいと思った。

だが、それよりも早くエノシガイオスのトリアイナ三叉槍が割り込み防御した。


ノコギリを凶悪にした歯。顔に対して小さな丸い目がこちらを見ている。


鮫だった。

それも人なんか軽く丸飲みにできるほど、いや、船さえも丸飲みにできるほどの大きな鮫だ。

それが三匹。


「(使い魔も召喚できるんか)」


先程まではいなかったはずだ。

だとするならば召喚をしたことになる。でも、いつの間に。


『なんだその顔は。貴様とておなじようなもんだろう?ほれ、守ってやらねば肉を食いちぎるぞ』


すぐさま攻撃方法を切り替え、向かってくる鮫に鉄砲水を放つと、鮫の体に穴が開く。

水が濁る。


途端、残り二匹の鮫が穿たれた鮫に群がり共食いを始めた。


仲間なのに容赦がない。

ゾッとする。


ビリビリと皮が引き千切られ骨が噛み砕かれ、咀嚼する音がくぐもって聴こえる。


ごくん。



気が付くと、鮫が一回り大きくなっていた。


まさか、仲間を取り込んで…。



鮫が今までの速度よりも早く泳ぎ、エノシガイオスへと襲い掛かる。


アウソは速水で鮫との間に割り込むと、銛を使って方向を逸らそうとした。銛との接触部分がガリガリと音を立てて、水の中なのに火花を散らせた。

これは、直で当たればヤスリで削り取られるようになるだろう。


『相手は鮫だけではないぞ』


クスラが生み出した水の槍をエノシガイオスが弾いていく。

だが、先程の尾の刺による負傷で動きがぎこちなく、弾ききれなかった刺が抉り、血が流れ出す。


その瞬間、鮫がエノシガイオスの負傷した部分へと向かっていく。


鮫は血の臭いに向かっていくのか。


再び鉄砲水を放ち、巨大化すること承知で狙いを逸らそうとしたが、鮫は鉄砲水をなんとギリギリで回避。角度が変わったことによって鮫の皮膚を掠め、更に加速。


生み出された衝撃波によって防御に回した銛ごと弾き飛ばされた。


視界が回る。


だが、このまま行かせるわけにはいかない。


なんとか体勢を立て直すと銛に魔力を込める。

出来るならば、今武器を手放したくはなかったが、致し方がない。


青い帯状の光が銛に巻き付く。

まだ全力は出せない。だが、可能な限りの量を。


ボンッ!!と音を立てて銛が手から放たれた。

水を裂いて進む刃が前方を泳ぐ鮫にあっという間に追い付き、鮫の胴に大穴を開けた。


「(よし)」


これでもう一匹を何とかすれば。


肺どころか全身が激しく痛むが、そんなことに構っていられない。もう一匹の鮫の近くに速水で跳ぼうとした瞬間、凄まじい圧が襲い掛かった。全身を満遍なく地面に叩き付けられたかのような衝撃。

何が起きたのか分からない。


意識を飛ばさなかっただけでも上出来だろう。


『あ、く、クリック音…』


エノシガイオスがしてやられたと漏らす。


クリック音、シャチが出すあれをクスラも出せるのか。

体が麻痺して動かない。

それはエノシガイオスも同じのようで、無防備に晒された体に向けて、クスラが笑いながら魔力を大量に込めたトリアイナ三叉槍の切っ先を向けた。


『決着だ、エノシガイオス。随分と呆気なかったが、所詮戦いを捨てた者は衰えるだけだ。死んで後悔をするんだな』


「王!!」


トリアイナ三叉槍が、エノシガイオスの腹に突き刺さり、突き抜けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る