第480話 裏の者.3

あの後、頭痛が酷くなり立ち上がれなくなってしまったので、一先ず準備が出来次第ということで近くの町に向かうことにした。


「大丈夫か?」


「う"ーん…、痛い…」


「寝とけ寝とけ」


無理矢理にベッドに放り込まれた。


『……』


ネコは少し済まなさそうな顔をしながら、オレの横で丸くなっていた。


『全く!!情けない!!』


「あんたねぇ、だったらアンタが抜いてきなよ。多分触れる前に黒斑の病より大変なことになると思うけど?」


『そうか!なら仕方ないな!!』


素直なのかなんなのか、良く分からない問答を聞きながら、オレの意識は深い睡魔に呑まれていった。















目が覚めると、お馴染みの空間だった。

何処までも透き通る水のなか。違うところと言えば、前回伸びまくった氷が少しほど砕けて浮游しているところか。


『お前さぁ、どっちかにしろよ。開き直るか!怨み抱えたままか!』


「いや、まさかそうなってるとは思ってなかったから」


早速エルファラに怒鳴られた。


見てみると、この前完全に氷に閉ざされた筈のエルファラの氷が少し溶けて、胸元まで出ていた。

相変わらず氷の壁はあるけれども、前よりは薄くなっている。


『中途半端に呼吸出来るようにしやがって!こんな心遣いいらねーよ!!』


そしてエルファラの口が悪い。そうとうお怒りらしい。


「待って待って、エルファラさん。オレもまだ動けないからそこは引き分けってことで」


『しるか!!お前の心の持ちようが脆弱だからこんな事になっているんだろう!!?』


「ごもっともだ」


なにも言い返せない。


腹や腕の氷は未だ突き刺さったままだ。

身動きできない。


唯一出来るのは会話だけだ。


キラッキラッと水面の光を反射して氷の欠片が輝いている。


『で?なんで今回は来たんだ?』


じとりと、めんどくさいと言わんばかりの顔でこちらを見た。


「あの、黒剣あるじゃないですか。オレの剣。真っ黒の」


『ああ、あったな』


「それが、言っててワケわかんないんだけどオレのせいで呪いを掛けてしまったみたいで、回収できなくなってて」


『そりゃあ、あれか。呪い返し受けたみたいな感じか』


「呪い返し?」


『そんなのがあんの。とにかく、最後の時になんの呪いを掛けてしまったのかを知りたいんじゃないのか?』


「そうです」


ふーん、とエルファラは納得してため息をついた。


『ヒントをあげるよ。下、見てみ?』


「下?」


下には確か黒い靄があるはずだが。そう思いながら下を見ると、黒い靄が消えていた。跡形もなく。

確かに光が届かなくて真っ暗だったが、それでもわかる。あれだけあった靄が残らず消えていたのだ。


『あの靄は、ボクの怒りや憎しみ、悲しみ、色々な負の感情が入り交じった魔力の塊だった。ボクと一緒に取り込まれた悪魔の残骸も混ざったものが、お前が剣を投げた瞬間にボクから引き剥がれて移ったんだ。きっとお前の感情と、剣の性質に引っ張られたんだろうね』


「………」


薄く笑うエルファラ。


『ボクは手伝えないけど、対処の仕方だけは教えてあげる。あの呪いはこっちの分野だから。多分、あの勇者も経験しているんだろうけど、記憶が戻りきってないんだろうし』


少し間を開けて、エルファラが口を開いた。


『出てきたやつはお前が一番知っている奴だ。いいか?あの場は望めば何でも出てくる。そして奴は勿論取り込もうと襲ってくるだろう。でも、敵ではないんだ。身を委ねつつ、目を逸らさずに向き合ってみろ』


ぐぐっと、体が引っ張られる感覚がした。やばい、目が覚める。


『じゃあ、がんばれよ』

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