第450話 熊と狼

その少し前、ルキオにて大活躍していた連合軍はイリオナに集結し、眼前の怪物達を睨み付けていた。

集まった種族は多種多様で、人族の方が少なくさえ思える。


空から影が一つ降りてきた。

形は人であるが、その背中からは背丈と同じほどの大きさの翼が生えていた。


有翼種の天狗である。


その天狗がゆっくりと降下し、一人の人物の側へと舞い降りた。その人物は背丈が二メートルをやや越え、体格も良く、手に持つ鍵爪の付いた巨大な金棒が良く似合っている。


「失礼、防衛軍が作戦を開始しました。偵察部隊によると攻勢だそうです」


天狗の報告を受け、その人物はニヤリと笑った。

人とは違う笑い方だが、それでもわかったのは器用に口端を持ち上げたからだ。


「ウム!承知した!ハッハー!!ようやく風が俺達に吹いてきたな!!ウレロ!準備のほどは!?」


後ろを振り返りつつ声を掛けると、狼の顔をした男が武器を手にやって来た。その後ろには多種多様の獣人ガラージャ達が。


「俺を誰だと思ってるんだ?ベルダー。いつでも良いぜ!!」


「よーし!!!いつまでも人族任せってのもみっともねーからな!!俺達の能力ちからの見せ所だ!!獣人ガラージャ隊!!俺に続けええ!!!」


雄叫びを上げながらベルダーとウレロが率いる群衆が一気に怪物へと襲い掛かった。



山一つ分はある程の怪物は、進行方向にある街や森を踏み潰していく。奴の狙いはイリオナだ。イリオナはルキオ戦やリオンスシャーレ戦等での負傷者が大量にいる。そこをやられるわけにはいかない。


勿論ベルダー達に恐怖がないわけではなかった。


派遣されてきた防衛軍が、悪魔の襲撃によって殲滅されたのを目撃している。東側は人型の悪魔が少なく、獰猛な魔物が多い。獣人ガラージャは東側に多く分布していて、人型の悪魔は一捻りである。だからか、質量で押し潰そうとしているのか、大質量の魔物が投入されている。


一方、西側は大質量の魔物が少ない。

そのほとんどが人型で、連続で光の弾が飛んでくる武器や魔法を使う悪魔が多い。


だからこそ、油断があった。


この前の襲撃は悪魔の蹂躙と言っても差し支えないもので、強力な魔法によって消えた部隊がいくつもある。


しかし、だからといって指を加えて見ているわけにはいかないのだ!!!


「おい、熊の」


「!?」


声を掛けられ振り替えると、ケンタウルスの群れがやって来ていた。


「主らの足は遅い。先にいってるぞ」


配布された魔法具の弓を持って。

つんと済ました顔をして、他の獣人ガラージャを見下しているケンタウルスはベルダーは嫌いだったが、こういうときは百人力だ。


「おう!頼む」


「ふん」


なので歩み寄ろうとしたのだが、鼻で笑われた。

やはりケンタウルスは嫌いだ。

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