第451話 虚空を見る.1

抉り取り作戦により、ホールデンの北西部の主要都市にまで展開できた防衛軍は、そこで防衛線を張ることにした。


ここらの都市は、首都のコアスを中心に放射状に展開している。それも規則正しく。その都市の並びを利用して防衛戦を張り、次の作戦へ移行するための準備をするのだ。


「それにしても気味が悪いですよね」


と、フィランダーが言う。


それもそうだろう。なんせこの街、いや、その隣の街にも人どころか生き物一匹いないのだ。


「それにしても小鳥一羽も見当たらないとはねぇ」


『つまんなーい』


ネコもフードの中でだらけている。


暇なときに小鳥を勝手に遊び相手にしているからな。小鳥にしてはいい迷惑だろうけど。


辺りを見回す。


いないのは、精霊もなんだよな。

どこの国にも、種類は違えど必ずいる筈なのに、目を凝らしても見付からない。

呼んでみたけど、何故か拒否された。


直接言われた訳じゃないけど、なんか、『嫌』っていうメッセージだけ風に乗って来る。


ただ、それでも断りきれないのがいて、そういうのは遥か上空にてうろうろしている。結界が張られている訳じゃないのに何でだろう。


「何処の家もちょっと前まで人が生活していたみたいな痕跡が残ってる。普通出掛けるにしても、襲われたにしてもそのままにして行きますかね?」


「そうね。それも全ての人が一斉にっていうのはね」


あちらにいるときに呼んだ幽霊船を思い出した。

確かあれも同じような感じだったはず。


「そろそろ準備が終わってるはずだ。見回りを終えて一回戻ろう」


「はい!」









生活用品をそのままにしてくれていたお陰で、陣地作りも日が落ちる前に完成した。

一応罠とかを疑って念入りに魔法も粒子の目も使って調べたが、拍子抜けするほどに何もなかった。


「ライハ、どうした?なんか懐かしそうな顔して」


「え、ああ」


だいぶ減った魔方陣札を補給しているとラビが声をかけてきた。懐かしそうな顔、か。


「…何て言うか、戻ってきたな~って思って」


「? 此処が故郷なんですか?」


部下が首を捻った。

説明がめんどくさいので故郷不明で通しているからな。


「違う違う。一年ちょっと前までホールデンでお世話になってたからさ。といっても街じゃなくて首都の方だったけど」


それでも感じるものがある。

違う形でだけど、帰ってきたって。


『……、ネコはトラウマの地だけどね』


尻尾が不機嫌に振られる。

そういえばネコはホールデンでは散々な目にしかあってないんだよな。


「今回は大丈夫だよ、みんないるし」


『だといいけどね』


くわぁとネコが欠伸を一つ。

珍しく戦闘がなかったからか少し気が緩んでいるな。いけないいけない。


「さて、明日からまた忙しくなるからな。みんな頑張ろう」

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