第442話 コロリ.3

「………、まて、なんか多くないか?」


しばらく走って(飛んで)ようやく町に着いたが、既にニックは疲弊していた。

ちょっとの間館に籠っていたから外こんなことになっているとは思わなかった。ここに来るまでに遭遇した魔物、11体。しかもそれなりの強さである。

新聞で護衛の募集がかかっているなとは思ったが、これのせいだったのかと納得した。


けれどもこの戦争真っ只中、まともに魔物とやりあえるハンターがどのくらい残っているのだろう。


ここらの腕の立つハンターはルキオに行ってしまっていて、その半数以上が再起不能になっていると噂で聞いた。


これでは町の移動もままならないだろう。


「うーん、そう?毎日こんなんだけど」


韋駄天を解除しつつアレックスが答える。こいつは色んな事が鈍いからな。


「あ、でもたまに護衛頼まれたりとかはするかな。可能な範囲だけやってるよ」


「そうか」


そのまま町の奥に行くと、宿屋が建ち並ぶ通りに出る。そこには護衛をしているハンターだったり、護衛が取れなくて待機中の旅人で溢れていた。


「此処だ、ここのお肉が美味いんだ。店長がハンターが途中で狩ってきた肉を買い取ってて、こんな分厚い肉を出してくれるんだ!今のところ俺の一番のお気に入りのお店さ!」


「ふーん。とにかく入ってみるか」


扉を開けて中に入ると、真っ昼間なのに酒と肉の臭いが充満した。その臭いにニックは一瞬うっとしたが、何とか耐えて近くの咳に腰掛ける。

その様子をニヤニヤしながらアレックスも腰掛ける。

ニックは何か言ってやりたかったが、遊びに来ているわけではない。


「アレックス、肉を頼め」


「君の分もかい?」


「俺は豆でいい」


「へいへい」


アレックスが注文し、先に来た豆を摘まみながら待っていると、驚くほど分厚い肉が出てきた。ジュウジュウと音をさせながら肉汁が弾け、アレックスが口のなかに溜まった唾を飲み込む音が聞こえる。


だが、ニックは、その肉を見て驚いた。


その肉には魔力がまとわり付いていた。通常、死んだものは時間が経つごとにその肉体から魔力を減らしていく。それは魔物であってもだ。特に火を通せば目には見えないほどに待て低下するのだが、その肉は明らかに異常だった。


「いただきま──」

「ちょっと待て」


「──あ?」


懐からカプセルを取り出す。


「…“指定、捕捉、捕獲、封印、そのまま削り取り留めろ”」


肉から魔力が溢れ、ニックの持つカプセルへと吸い込まれる。キラキラと魔力の粒が煌めく。色は黒だ。

全て吸い取り、蓋を締める。


その間、アレックスは口を開きっぱなしだった。


「よし、いいぞ」


「──す。犬かい俺は」


「豚よりいいだろ」


食べ終わり次第屋敷に戻り、宛がわれた部屋に籠って調べてみると、ビンゴだった。

高濃度の混沌属性の魔力だった。しかもその性質は元のものとは比べ物になら無いほどに変化をしていた。


「まるで毒食いの魚のようだな」


海には毒を喰う魚がいるという。毒は消えることはなく体内で濃縮し、より危険なものへと変化させ、漁師はそれをハンターに売るという話を聞いたことがある。この魔力も、獣の体内で変化し、一回食べただけなら体に変化はないが、食べ続ければ体調不良から始まり、限界値を突破するとあっという間に体を蝕む。


だが、店員に話を聞いても、ハンターは決まった魔物を狩ってこない。なのに目を凝らして周りを見てみればどの肉も魔力を帯びている。


それとなく店員に言ってはみたが、そもそも魔力を見ることも感じることも出来ない人間に信じられるものではないらしく、またギリス人が何かいってる的な目で見られ、俺だけ追い出された。

こうなったら何とかしてこの事実を上の人間に知らせなければならないのたが。


そもそも、なぜいきなりこんな…。


そこまで考え、ニックの中にとある可能性が浮上した。

今まで戦争の事ばかり考えていたが、もしそれが“陽動だった”としたら。


「………なるほど、悪魔め」


魔力をいくつかのカプセルに分け、ニックは部屋の中に魔方陣を描き始めた。

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