第435話 悪夢.7

黒い滝、というよりも、針のようなものが一直線に並び、一斉に降ってきた。

これは魔法だと認識できたからすぐさま盾を使って無効化しようとしたのだが、この黒い滝の針は一つ一つが独立した魔法らしく、一本消す隙に他の針がすり抜けて盾や体を貫いた。そしてその針が当たった場所から魔力が食われている気配がした。


──ゲルダリウスの能力だ!!気をしっかり持て!!喰われるぞ!!!


「んなこといっても…っ!!」


まさか盾にこんな弱点があるとは思わなかった。

しかもこの攻撃は質量を持っていて、当たる度に削られている。

ネコが何とかして脱出をしようとしているが、すでに逃げ場はなく、上からの攻撃のせいで落下速度が増している。このままでは地面に叩き付けられる。


対処する方法を考えよとするも、そんな時間も暇も与えてくれるわけはなく、当たった箇所からごりごり魔力が削られていく。いや、喰われている。


攻撃は止まることを知らない。魔力が食い尽くされれば、回復能力が発揮できずに地面に叩き付けられて死ぬ。

ゾッとした。

それだけは避けなければ。


『ダメだ!!持ち直せないよ!!』


翼を使って何とか斜めに逃げようとしたが、ネコの翼も容赦なく喰われているらしい。これ、体勢的にオレがネコの盾になっているが、少しでもズレればネコは魔力食い尽くされて消滅するんじゃないか?


「ネコ!!ピアスに戻ってろ!!」


なら、少しでも魔力が残ってる内に避難してもらってた方が生き延びる可能性がある。


『まって!!ライハはどうするの!?』


「オレは魔力が無くてもギリギリ生き延びられる!!大丈夫だ何とかしてみせる!!」


血が滲みながらも、まだ回復能力は健在だ。ネコの安全を確保次第、そうだな、やりたくはなかったが爆撃魔法と反射の盾の反射方向を自分に向けて重ねれば、体を横方向へと飛ばすことができるかもしれない。


そうすれば、もし間に合えばネコを呼んで飛んでもらうか、間に合わずに地面に叩き付けられても何とか回復はできると思う。


部下に持たせているように、自分用に魔方陣札のストックを持っていて良かった。


『わかった!!無茶はしないでよ!!』


ネコの姿がボヤけ、背中側から熱が体内に入り込みピアスが熱を持った。


──ビギッ


耳が不穏な音を拾い上げる。盾が持たない。オレも魔力が半分は削られている。

盾が無事な内に早く脱出しなければ。

魔方陣札ストックは胸ポケットに入っている。それを取り出そうとした瞬間、銀色の風が胴を貫いた。


「………え」


盾が腕ごと貫かれた。それなのに腕に切られた時のような痛みはなく、どちらかと言えば冷たい鉄が痛みなく体に侵入した感覚のみ。シンゴの剣とは違う、剣の付け根に何かの植物の絵が刻まれている。それが赤く輝いた時、体の中から直接魔力を吸い出されているような感覚。

剣を抜かなければとしたが、剣が動かない。しまった魔力の道を作られた。


そうしている間にも魔力を喰われ続ける。既に手は冷え、感覚が無くなっている。


黒い滝も威力を増し、最早自分の体がどうなっているのかも分からない。分からないが、これだけは理解できた。


このままだと死んでしまう。


「が、あああああああ!!!!!」


必死にもがいた。だが、体が魔力が無くていうことを聞かない。回復が間に合わなくなってきて、喉の奥から暖かいものが溢れる。


死にたくない!!まだ死ねない!!!


──そこ替われ!!!


「!!」


眼前に半透明の腕が伸び、後ろへと押される。

意識がボヤけ、押されるままに体が後ろへと下がった。だが、それはそう感じただけで、実際に下がってはいない。下がったのは意識だけだ。突然周囲が暗くなり、視界が狭まる。風景がガラス越しに眺めているような、現実感が無くなって、感覚さえも夢の中のようにボヤけている。

その眼前で、エルファラがオレと入れ替わる様にして体の主導権を握った。


そこでようやく気が付いた。


黒い滝の向こうで、ゲルダリウスが蝙蝠の翼を使い飛んできていた。手には別の剣。その剣を振りかぶり、突き刺そうとしていた。


『ゲルダリウス!!!!』


エルファラが体に突き刺さった剣を無視し、黒剣で受け止めた。


間近に見るゲルダリウスの顔が一瞬驚き、次いで喜びに変わる。


『この気配…、エルファラ様!!やはりエルファラ様なんですね!!はははは!!なんて幸運、全く人間に取り憑いてまで生にしがみつくなんて、卑しい!!高貴なる魔族の貴方が!恥ずかしくは無いのですか!?』


『黙れ!!!お前らのしたこと後悔させてやる!!』


『後悔させてやる?ふふふ、何いっているんですか?』


ゲルダリウスの体をすり抜ける針で体からは魔力が今もなお喰われ続けている。もう、そろそろヤバイ。

腕にはもう力が入らなくなっており、剣を握るのも辛そうだ。それをわかってか、ゲルダリウスは簡単にエルファラの持つ黒剣を弾き飛ばした。


がら空きになった腹を踏みつけ、胴に刺さる剣の柄をゲルダリウスが握る。


『後悔するのは、貴方の方です。前回も、そして、今回も』


言い終えるや、ゲルダリウスが胴に刺さった剣を勢いよく引き抜いた。ブチブチと体内から何か千切れ、引き抜かれる激痛が襲う。残りの魔力すら持っていかれた。


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『~~~~~っ!!!!』


声にならない悲鳴が喉から滑り出る。それを見て、ゲルダリウスが憐れみの目でこちらを見た。


『さようなら、エルファラ様』


ゲルダリウスが体を下へと蹴り、ふわりと浮き上がる。

遠ざかるゲルダリウスの姿を睨み付けながら、意識が消えた。

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