第432話 悪夢.5
『ん?んーーん?あれ?違いますね。てっきり魔力の気配が似てるのでエルファラ様かと思いましたが……。まぁ良いです。せっかくなんで──』
ゲルダリウスの手のひらがこちらへと向いた。
何だか嫌な予感がする。
逃げなくてはと思うが、落下中ではどうすることも出来ない。そうしている間にも、ゲルダリウスの掌に魔力が集中していく。
『──死んでください』
ボッと音がして、空から黒い滝みたいなのが降ってきた。
「堪えろ!!!なんとしてでもこの建物を守り抜け!!!」
ラヴィーノ副隊長の号令で遊撃隊が流れるように動き、次々に結界魔方陣札を使って建物に障壁を展開させている。副隊長だけでもこの動き、確かに遊撃隊が不測の事態にこそ真意を発揮するというのは間違いないようだ。
マルコフはその様子を感心しつつ、自分の部下に指示を出した。マルコフの担当はもっぱら正面の魔物共だ。
空から降ってくる岩の塊が次々に結界に当たっては砕け、同時に結界も耐久値が限界に達しては崩壊している。それをすぐさま遊撃隊が、あの複雑すぎてどうやって描けば良いのかも分からない魔方陣を文字を書くかのようにすぐさま生成して穴を塞ぎ、あるグループに至っては魔方陣を紙に描く事なく直接空中に指先で描いて発動させるというギリスの魔術師並みの高等技術を見せている。
遊撃隊が一体何を目指しているのか分からないが、味方でよかったとマルコフは心から感謝した。
正面を見据えると、雑兵達が魔物を解き放つ準備をしている。
遊撃隊は建物を守ることに手一杯だ。ならば、魔物は我らが引き受けねば。
「マルコフ隊長!!総員配置に付きました!!」
「うむ」
剣を構え、新しく支給された魔砲撃機を起動させ、解放されてこちらへと突っ込んでくる魔物の群れを瞬きせずにその瞬間を待った。
迫ってくる。一直線に。
マルコフ達は武器を構えながらも、突っ込んでくる魔物の群れを、ただ待った。
「マルコフ隊長…」
「まだだ。まだ引き付けろ」
結界越しとはいえ、津波のように押し寄せてくる魔物の前で囮として立ち続けるのは恐怖との戦いだ。
幸いあちらは魔方陣がフェイク、もしくは数で押せば大したこと無いと思っているのだろう。怯むことなく突っ込んでくる。
だが、確かにナメられているんだろうなと思う。線のように細長い魔方陣は見た目的には脆弱だ。強力な魔方陣はどうしても巨大になりやすい。だが、今回使った魔方陣は従来のものとは違う。地中深くから地上にかけての距離を使った巨大な魔方陣だ。だから、この細長い魔方陣の距離はそのまま魔方陣の直径の距離と同じなのだ。
指定のポイントへと魔物が脚を踏み入れた。
「今だ!放て!!」
マルコフの号令で、魔砲撃機の先端から弾が発射される。
構成は風と土だが、目眩ましには最高の代物だ。
結界をすり抜けた目眩まし弾が魔物の目の前で弾けて、視界を白に染め、魔物の群れの前列か魔方陣の起動線を踏み抜いた。次の瞬間、土が地中深くから火山の噴火のように一気に噴出し、爆撃の魔方陣も衝撃によって起動、連鎖的にすべての魔方陣が発動した結果、魔物の群れが空高くへと吹き飛ばされた。
その衝撃でマルコフ達を守っていた結界が吹き飛んだ。元々この衝撃を堪えるためのものだったから問題はない。
魔物達の悲鳴が轟く。
だが、マルコフはここで喜んでいられるような楽天家ではない。
「剣を構え!!突撃!!」
後ろの方にいた魔物が仲間の屍を踏んで目眩ましの煙の中から飛び出してきた。そこへマルコフ達の部隊が突撃していく。そんな中、機械的に結界を張り直していたフィランダーがライハの敵を引き連れて走り去っていった方向の異変に気が付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます