第429話 悪夢.2
シンゴだ。
シンゴは相変わらずこちらをバカにしたような目を向けている。
「ますます気持ち悪い気配になってやがる。まだ人のふりしてんのか?勇者にもなれなかった出来損ない君」
昔なら、多分激昂しただろう。だが、不思議なことに心はしんと静まり返っていた。それは、シンゴが悪魔と同じ気配をさせていたからだろう。
叩きつけられる魔力に混ざる悪魔の気配。何故シンゴが悪魔の気配をさせているんだ?
薄く笑っていたシンゴが急に真顔になった。
「なんか言えよ」
シンゴの体から魔力の塊が何の動作もなく作られ、細長く変化すると六つにバラけて飛んできた。
六つの風の槍を避けると、地面に穴が開いた。ぽっかりと。これ直に食らったらヤバイかもしれんな。
「隊長!!」
「こっちに来るな!!結界を張って建物を守ってろ!!」
「!!」
こちらにやってこようとする隊員を止める。何となくだが、隊員達では太刀打ちができない。それでもこちらに来ようとする隊員をラビが止めている。横目で合図すると、ラビはすぐさま頷き指示を飛ばし始めた。
他の部隊の連中も巻き添えを食らわせないように何とかしないと。
建物を魔方陣札によって多重結界を張るのを確認して、オレはシンゴに向かって雷の矢を射った。威力はない。速度特化のものだったが、シンゴはそれを易々と避けた。
避けられるだろうとは思ってたから驚きはない。だけど、それで、シンゴの意識が完全にこちらに向いた。
身体能力向上を発動して一気に駆け出し、誰もいない場所を目指す。
「また逃げるのかよ!!」
シンゴが空を飛んだまま追い掛けてくる。
しかしただ追い掛けてくるだけではない。
時折撃たれる魔法を、絶えずシンゴを睨み付けているネコの指示を聞いて避ける。旋風属性は速度も早く、範囲も広い。出来るだけ距離を取った方がいい。
それにしてもあの風の槍、受けた地面が抉れるというよりは穴が開くって、どういう事だ?
『岩が飛んで来る!!ネコが何とかするからそのまま走って!!』
「岩!?」
なんで岩が?そう思ったが、ネコが魔力を溜めて、口から電撃を放った。後ろで岩が砕ける音がしたと思ったら、『ビヤッ!?』と変な悲鳴をあげた。
『ごめんライハ!!ネコあれ無理何とかして!!』
尻尾がベシベシと頭を叩いてくる。一体なんだと振り返れば、頭上を覆い尽くす岩が。なんで?
シンゴの新しい属性とか?
「潰れろ」
シンゴがそう言うや、岩が高速回転して突っ込んできた。
「うわわわ!!!」
なんだあれ魔法か!?魔法なら盾で喰えそうだけどもし違ったら大変な事になる。というかあの質量、盾の結界どころか普通の結界でもそのまま受けたらきついんじゃないか?
黒剣を抜き、急いで纏威を発動しつつ振るった。バゴンと音を立てて岩が二つに割れて地面にめり込む。
必要最低限の範囲の岩を切断しつつ、余裕かましているシンゴにちょっと腹立って、最近完成した新技をお見舞いしてやろうと、跳ね返しの結界を多重に発動し、それを脚に固定。纏威を発動し、こっちに飛んでくる切断して少し小さくなった岩に向かって蹴りを放つ。
多重掛けした5枚の内3枚が大破したが、4枚目5枚目で跳ね返す事に成功。纏威の蹴りの威力も相まって岩が乱回転しながら飛んでいき、シンゴが驚きの表情を見せた。
自分の放った魔法で痛い目見やがれ!!
岩はすごい速度で飛んでいき、もうすぐでシンゴに当たるだろうと思ったが、その寸前で岩が下から生えてきた壁によって阻まれた。
『……木…じゃないよね、あれ』
「うん。たぶん違う」
地面から突き出て、ぐにゃぐにゃと折れ曲がっているそれは一見すると木のようだが、ボロボロと端の方が崩れているのを見て、土なのだとわかった。
「コノン。邪魔すんなよ」
崩れていく壁の向こうで、腕が黒く歪になったシンゴが忌々しそうに土に向かって話し掛けた。
すると、土はまたしても形を変えて、枝の先が人の姿になっていく。そしてその表面が崩れると、中から少し幼さの抜けたコノンの姿が出てきた。
「シンゴが、ライハ追い掛けてたから。言われたことと違う事始めた。だから止めに来た」
「……僕はこの悪役をやっつけたいだけだ。小物の魔族だけならコノンだけで事足りるだろう?」
「でも二人で潰せって」
「僕らの力を見くびりすぎだ!だいたい!あのマゾンデで沸いていた魔族だって僕一人で全滅させただろう!?わらわらと組織だってたけど、すぐに殺れたじゃないか」
なんだ?何の話をしているんだ?
「いいから、コノンがまず一人でやってみろよ!危なさそうなら僕が手を貸すから!」
「…………わかった」
そう言うと、コノンはその土の巨体ごとキャンプを向くと、岩の砲弾を作り出し撃ち込んだ。
キャンプから上がる轟音と土煙。血の気が下がる。結界を張っているが、こんなにも大質量の岩を撃ち込まれたら、いくら多重掛けにしていても持つかどうか。
「コノン止めろ!!!あそこにいるのは人だ!!悪魔や魔物を倒しに来た連中なんだよ!!ーー!!?」
視界の端から伸びてきた銀色に体が咄嗟に反応。
黒剣で防ぐと、回転しながらシンゴの大剣が宙を舞い、シンゴの手に納まった。
「何いってんの?悪魔め。お前が連れてきた魔族なんか僕達だけで殲滅してやるよ。知ってんだぜ、お前だろ?世界中に魔族をばら蒔いてるの。僕達はそれをホールデンに集まった最後の人類と共に世界を取り戻すんだよ。それでハッピーエンドだ。お前の好きにさせてたまるか」
「………は?」
全くもって何を言っているのかわからない。
頭のなかで何度も何度も繰り返し考えても分からない。
オレが連れてきた魔族?
ホールデンに集まった最後の人類?
え?
オレの頭がどうしようもないくらいに悪くなったのか?とネコを見ると、こちらも頭にはてなを浮かべて『何言ってんだあのモジャモジャ』といってる。良かった、ネコもわけわかんないみたいだ。
「話は此処までだ。さて、ここまでお前と仲間が分断されてれば別に今決戦してもいいよな。バールド」
『キュッ?』
シンゴの影からボールのようなコウモリが現れた。
「開戦だ。ライハは僕が引き受ける。皆殺しにして、晒せ」
『アイアーイ』
なんかわからんけどマズイ気がする。
返事を返し、飛んでいくコウモリに向かって、ネコが電撃を飛ばしたが、シンゴが大剣を振り下ろして電撃を粉砕した。まじ?そんなこと出来るの?
その隙にコウモリが闇に溶けていってしまった。
やっべえ。これさっさと決着つけて連絡入れないと。無線も持ってくれば良かったと激しく後悔。
出し惜しみしている場合じゃない!!
「ネコ本気で行くぞ!!」
『うん!』
制御を掛けていた魔力を解放した。体の底から暴れ出る魔力が、辺りの空気を振動させる。
「じゃあ、こっちも本気でいくよ。レベルの上がったこの僕の攻撃にどのくらい持つのか楽しみだよ」
シンゴも同じく魔力があふれでていく。やはりそれは悪魔の気配がしていて、解放した瞬間にシンゴの両腕が変形していった。あまりにも黒く、光も反射しない。だけども体に不似合いなほど大きな腕。そして、シンゴの瞳が赤く変わっていく。
先手必勝!!
纏威の発動を続けたまま、剣に電撃を乗せてシンゴへと放った。
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