第380話 隊長!.1

南方襲撃から約2ヶ月、ホールデン北部奇襲から半月。


「……あの、一言いいですか?」


「どうぞ」


「どうしてこうなった」


リオンスシャーレ北部に各街から自警団が集まり、ここを第一級危険地域と指定し、オレ達は転移魔法で中部の首都レクイウェドへとやって来た。そこで国軍の建物へと招待された。ニック達は呼ばれていない。何で?とはてなマークを浮かべながら、いかにも軍隊って感じの建物に着き、受付をすると、何故か突然高い位にいるんだろうなと思わしき服装の人がいる部屋に通された。


そこで言われた第一声。


「君を防衛軍の遊撃隊の隊長に就いて欲しい」


と言われた。


「いや、何でですか?」


「今回の悪魔戦での活躍と、あと過去の君の経歴を調べさせてもらった。といっても君はフリーハンターだから辿るのにも骨が折れたが…」


「はぁ」


この世界には個人情報保護の考えは無いのか。無いな。既に手配書が出回っているし。


「いやぁ、情報が少ないのに凄いね」


手に持った書類をパラパラ捲る。


「えーと、まずマテラのシルカ村ルツァ事件、サグラマでは拉致され、グジャナ街で剣闘士にされているところを救出。華宝で高ランクハンターへ昇級。エルトゥフの森で悪魔戦に参加、ウォーローで高ランクパーティーへ昇級。カリオナで第三次人魔大戦第一波に遭遇し、ドルイプチェでルツァを二人で討伐、そしてリオンスシャーレ北部で悪魔の奇襲を退けた。その間、僅か一年。俺の知っている軍人でさえそんなに短期間でこれだけの成果をあげる奴はいなかった。驚きの早さだ。で、更に驚いたのが、……これは今日知ったことなんだが、カリアさんの弟子なんだってね」


そこまでバレてるのか。まぁそうだよな。情報提示してるし、ギルドにちょこちょこ寄ってるし。

ていうか、カリア“さん”?


「カリアさんの事知っているんですか?」


「ああ、けっこう前に世話になっている。恩人だ。それで、弟子でこの経歴ならと思ってね。もしよかったら、なんだが」


そこまで聞いて悩んだ。隊長ってことは20~30人の命を背負うってことだよな。それだけでも大きな責任が伴う。果たしてオレなんかが務められると思うのか?ただでさえ自分の事に精一杯なオレが。ネコにも呆れられるのに人間相手なんか呆れられるすっ飛ばして絶望させてしまう。

辞退しよう。そうすればみんな幸せだ。

だいたいメリットなんかあるのか?


一応訊いてみよう。


「それをすることによってのメリットとかありますか?」


え、という顔をされた。思っても見ないことを言われたかのような顔だ。


「メリット……ですか。地位とかは駄目ですか?」


「駄目です」


そんなのいらない。


『(お腹の足しにもならないしね)』


「(ほんとそれな)」


影に潜んでいるネコが言う。オレはそんなもの本当にいらない。金もいらない。ただ辞退する理由を探しているだけなのは分かっているが、何となくの興味もあった。

この人はこんなオレを納得できるメリットを提示することができるのかと。


「………あとは、移動魔法を使いたい放題とか。遊撃隊は状況によって素早く自由に対応できる部隊として作ったので…」


移動魔法を使いたい放題。


それはヤバい。それってつまり、今までやってることを時間短縮で出来るってことか。そうすればより多くの戦場で悪魔と遭遇できるし、エルファラの復讐相手にも出会えるかもしれない。


そして、うまくいけばルキオにも出張できる。


「やります」


「え」


偉い人の顔が明るくなる。


「やります」


「やってくれるのか!!」


「その代わり多分ですけど割りと滅茶苦茶するかもしれませんが良いですか?」


主に魔法関係とかそんなだけど。


「ええ!戦争に勝つためです!俺も出来る限りの希望を通そう!」









そうして、オレは自分の目的を果たす為に隊長になることの意味を分からないまま遊撃隊の隊長になることを承認してしまったのだった。

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