第335話 鬼がいる
「ニック…、頼むから目覚ましがわりに魔法を使うのはやめてくれよ…」
ゲンナリした顔でニックを見るアレックス。
「え?え?」
どういうことなの?
ニックのパーティーリーダーはシラギクさんじゃ?
「そういや言ってなかったな。俺はスーパーノヴァ所属の魔術師で、シラギクは副リーダー、でー、そこで眠気と戦ってるのが本当のリーダー。そして…」
ニックはテントからカミーユを引きずり出し、腹を思いきり踏みつけた。
「グヘェ!!」
「起きろ変態。てンめー持ってけっていったやつ忘れやがって。探すの苦労しただろうが」
「ちょ、いた!え!うわチビ…いたたたた!!!ゴメンゴメン!!!」
無言でゲシゲシと腹を蹴りまくるニック。え、怖い。なんとなくサドなのは察してたけど仲間に本当に容赦ないな。
「なぁなぁなぁ、誰あいつ。カミーユが蹴られても興奮しないなんて、はじめてみたぞ」
「あ、ラビ」
異常事態にこっそりテントの裏から脱出してきたらしい。手に皆の荷物を持っている。本当に気が利く奴だよ。
「うちのドエス魔術師のニコラス・ローウェル。一部の奴にしかデレないめんどくさい奴さ」
「おい聞こえてんぞ!!」
ズダボロにされたカミーユが転がっている。珍しくハァハァしてなくて逆に不気味だった。
「で、こいつがうちの魔法具職人。こいつが指定の魔方陣を忘れていったから探すの手間取って夜になっちまった。まぁ、お前のとんでもねぇ魔力のおかげで辿り着けたけどな」
「誉められてんのかな、それ」
ニックの魔法によってドーム状の結界が張られ、雪は消え、暖かい。上着を脱いでも良いくらいだ。
『ねぇねぇ、あの子は?』
ネコがそわそわとニックの周りを回っている。
あの子?とニックを見てみて気付く。ピートンがいない。
「アイツは置いてきた。今頃パルジューナの宿で腹出して寝てるよ」
『そっかー』
ネコは少し残念そうだ。
そういえば前ずっとピートン見てたからな。
「それにしても、ほんと、予想外の方向に覚醒したな。なに?狙ってンの?角に甲殻に、よく見てみりゃリミッター破壊していやがるし」
「何をどうすれば狙っているってなんすかね。不可抗力ですー。むしろ困ってるんだけど。何とかならないですかね、コレ」
「なるぞ」
速答。
「なるの!?」
「なるなる。取っ払う?」
「是非ともそうしてください!!」
土下座する勢いで頭を下げた。
こんなんあってもメリットない。
しかし、そう答えたニックの口に笑みが浮かぶのをオレは見逃したのだった。
「じゃあ二つ選べ。ひとーつ、あんまり痛くないけど凄い時間かかるやつ。だいたい半年。ふたーつ、死ぬほど痛いけど一晩で治るやつ」
「え…。間はないの?」
「無い」
「えー、じゃあ、うーん」
時間かかるのは、流石に。半年は長すぎる。
って、待ってこれ、最終的に選ぶの一つしかなくね。
「時間切れ!2な!」
「時間制限あったんかい!!てか結局2かよ!!」
「半年なんて待てないだろ」
「そうだけど」
「じゃあ問題ないな!」
鬼や、外見ではなく内面での鬼がいる。
結局そのあとニックにうまく丸め込まれ、ネコをラビに預けると、凄く痛くて暴れるかもだから森の奥の方でと連れていかれた。
ニックが結界を張り、雪を退かす。
「どのくらい痛い?」
「さぁー、でもだいぶ進行が進んでるからな。俺が言えるのはひとつだけだ。想像もつかん」
マジか。
ニックの杖から光が生まれ浮遊して辺りを照らす。
「でも安心しろ、俺は腕がいいからな!メリットあるやつ以外は全てひっぺがしてやるよ!」
しかしその光が逆行になっているせいでニックの笑顔がますます恐ろしいものに見える。おかしいな、悪魔と対峙したときよりも怖いんだけど。
「じゃあ、やるぞ」
杖を構え、ニックが詠唱を始める。
気付いた時はすでに朝で、結界内の大地はほぼ更地で、ニックが内側に張った結界の中で寝ていた。
「終わった?」
頭を触ると角はなく、腕にも頬にも黒いのが無くなっていた。
なんかあのあとの記憶が丸々飛んでるけど、結果よければ全てよしだ!
そう思い、オレはあまりの眠気に耐えられずその場に丸まって寝たのであった。
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