第336話 国境を超える
アレックスに起こされ、遅めの朝食をとっている途中ニックに聞かされた話。今回の容姿の変貌は、やはりオレの中の悪魔との癒着が強まったからだという。今まではなんとか抑え込める範囲であったが、今回強い怒りの感情に引っ張られ、魔力のリミッターが壊れ暴走した結果である。
魔力のリミッターとは、普段は魔力の負担で体が無意識的に掛けているものだが、これが外れると、所謂火事場の馬鹿力が出やすくなるというもの。
しかし、デメリットととしては、リミッターが破壊されているがために細かい制御が利きにくくなる。そして抑え込み方を忘れてしまう等がある。つまり魔力垂れ流し状態の為、減る魔力を食欲でカバーしだす。
そして一番厄介なのが垂れ流しの魔力に引き摺られ、悪魔化の進行が加速しやすくなること。悪魔は魔力の浸透が高く、魔法を使うと悪魔化が進む感じになるらしい。悪魔化が進めば甲殻が広がる。なので今後、やたら魔法を使うのは控えろと言われた。
「治せるんじゃないの?」
「神聖魔法を使えばな。死ぬほど痛い目に遭いたいなら使えば?」
「遠慮します」
「つっても控えれば縮小する可能性もあるけど。それは経過を見ないとなんとも言えん」
あと興味深いことも教えてもらった。
悪魔の角はアンテナの役割をすることがあり、仲間が発信する信号を受信して呼んだり、指令を下したりする事があるそうだ。
「あのカチカチ音はそれか」
「あのライハが突然走り出したやつかい?」
「それ、めっちゃ呼ばれてる感じで、方向が分かった」
「それは興味深い。てか残しておけば悪魔の居場所が手っ取り早く分かるな。もう一度生やそう」
「やめて。あれのせいで今回酷い目に遭ったから」
本気で殺されるかと思った。
しかし、あれ、所謂悪魔目線ってやつなんだよな。そう考えると複雑な気分になったが、そもそもやつらも人間喰うしおあいこか。
「って感じかな。今わかるのは。あとあとなんか体に不具合があったら教えろよ」
「わかった」
ズボンの土を叩いて立ち上がる。
焚き火を消し、後始末をすると荷物を纏めた。
この後国境を超える。
どうやって越えるのかは謎だが、それはお楽しみだと教えてくれなかった。
『フンフンフーン♪』
ネコがフードの中で鼻唄を歌っている。
とても機嫌が良さそうだ。
「機嫌が良いね」
『うん。前は喋れなかったから誤解されたけど、今回はしっかりと挨拶をするんだ』
前回怖がられてたからな。てか、あれ狙ってたんじゃなくて挨拶をしようとしていたのか。てっきり餌として見ているのかと思っていた。
灰馬の手綱を引きながら森の中を歩き、大きな木の前で立ち止まった。
「此処で良いか」
ニックがポケットから押しピンに似た物を取り出した。
「ああ、それ使うの」
カミーユがなるほどと納得した顔をした。
それにニック。
「ほんとは使いたくねーけどな。こんだけの人数だ。こっちのが楽なだけだ」
そう言いながら押しピンを木に突き刺し、ノックをする。
「 “シラギクに繋げて” 」
押しピンの所から波紋が広がり押しピンを飲み込むと木が更に大きく波打つ。すると、その波の向こうから人の手が差し出された。
「 “私は君が来るのが待ちきれない、一刻もはやく此方においで。手助けをしてあげよう” 」
声の主は恐らくシラギクだ。
「先にアレックスと俺が行く。その後にカミーユがまたコレを発動させろ。しくじるなよ」
「私が魔法具でしくじるわけ無いでしょ。はやく行きなさい」
シッシッと、カミーユがニックに向かって手を払った。
「 “アレックス” 」
「はい」
「 “ニコラス” 」
「はい」
二人とも返事をしながらシラギクの手を掴むと、そのまま木に呑まれ消えた。
それを確認するとカミーユが同じものを取り出し、ノックをする。
「はぁー。なんで私があいつなんかに…。 “ニックに繋げて” 」
そうして今度はカミーユとラビが呼ばれる。
「じゃあ先にいってるぞ」
と、ラビが光印矢を持って消えた。
さて、そろそろ着いた頃かな。
先程の魔法具は人しか運べない。名前を呼び掛けて返事をするものだけ道を作るのだ。だから返事ができない駿馬達はオレの光印矢で運ぶ。
ラビが座標を持っていったので、ネコの尾を体に巻き付け、灰馬に跨がって
「よし、じゃあ行くぞ」
昨日のせいで魔力がごっそり持っていかれたが、気持ち悪くないから大丈夫だろう。
そう思って魔力を流し込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます