第319話 同じ穴の狢.3

「!」


ソワソワとしている二頭を宥めながら仲間を待っていたラヴィーノだが、突如凄まじい音が鳴り響いた。それは二人が去っていた方で、音はいくつも鳴り響いた。破裂するような音と火薬の臭いと、雷が落ちた音。


戦闘が始まった。


「…………」


手を組み、信仰する双子神に無事でいるように祈りを捧げようとして、手を下ろす。何度も何度も、奴隷にされていたときに行っていたその行動は、願いが届くことはないということをラヴィーノは既に知っていた。

ライハ達に助けられたのも既に神に祈ることを止めていた時だったからだ。


「…………、駄目だ、行こう」


考えたけど駄目だ。

待つ方が耐えられない。


役に立たないのは分かるけど、俺が待つのが無理。


「ハイバ、レックス。ここで待ってろよー、お前らの主人の手助けしに行くからちょっとこれは首から下げて待っていて」


せめてこの二頭は無事でいさせようと、意識逸らしの魔方陣複数枚を使って首飾りを作って下げておく。ラヴィーノがここから立ち去るときに二頭の姿は見えてしまうが、これだけ下げてれば見付からないだろう。


自分の双剣を取り出し、音が続く所へと走っていった。


「!!!?」


慌てて物陰に隠れたが、ラヴィーノの目の前の光景に凍り付いた。


ライハの腹から何か突き出ているし、アレックスが銃を突き付けている。なんで!?どうなってるの、これ!?


ライハの後ろのあれはなんだ?黒い塊がウゴウゴと蠢いて気持ちが悪い。

そして何やら会話をしているらしいが聞こえない。てか、ライハあれ生きてるの?大丈夫なのか!?


そうこうしているうちにライハが後ろに向けて雷を放つ。見たこともない程の巨大な雷撃が後ろの木を数本消し飛ばした。ウゴウゴはギリギリ避けられたようで、うねうねと動きながら人に似た形をとった。ただしそれは蔓で出来た人形のようだ。


(……あれが魔物?いや、悪魔か?)


物語に出てくるような悪魔とは形が違うが、逃げ出したくなる雰囲気の中、ラヴィーノは身を低くし、違和感の元を探し始めた。












黒剣を引き抜き、雷を纏わせながら振るう。この悪魔は回復能力が高くないのか受けることもせずに回避に徹し、時折視界の端から伸びてくる植物に手足を拘束されそうになるとすかさずアレックスが阻止してくれる。


『フフフ、ほらほらまだかすってもないよ?』


「余裕なのも今のうちだ」


不安定な履き物の癖になんて身軽に動くんだ。だけど、オレだってまだ速度を上げられる。身体能力向上で接近して体の回転を上げ、すぐさま纒威に切り替えると、悪魔が逃げる前に黒剣を高速で振った。


『ほ!?』


目を見開く悪魔、次の瞬間オレの目の前には巨大な光が目の前の木々を飲み込んで一瞬で消し飛ばした。地面が抉れて剥き出しになった根も燃やすが、これで悪魔が死んだとは思わない。

今まで何体もの出会った悪魔、それの殆どがルツァよりも強いと感じた。それに幻覚が効かないはずのオレにも幻覚が見えてる。どんな仕組みなのかは知らないけど、初っぱなから全力でいかないと救出なんか出来ない。


『フヒヒヒ、これはこれは、ヒヒッ。なんとも面白い攻撃をする。やはりお前こちら側に戻れ!私から上に話を通してやれば相応の位に付かせることもできるぞ!!』


片腕を失っていたが、それでも愉快そうに悪魔が笑いながら勧誘をしてくる。


「オレは元々人間だ!!!」


「ライハ!足元注意!!」


「!!?」


足元が膨れ上がり、地面から根っこが湧き出して足を捕らえて宙吊りになる。アレックスがそれを撃つが、放出された弾があらたに突き出した根の壁によって防がれ、その先端がアレックスを叩き潰そうと襲い掛かった。


『私はお前が気に入った。その美味い体も、先程の技も。なかなか良い』


また雷で消し飛ばそうと腕を動かすと、それを察知して根が両手首に巻き付いて動きを封じた。しかも、こちらに指先さえも向けられないよう、じわじわと腕を背中側に折り曲げようとしてくる。


「いっ、いたたたたたた!!?」


抵抗しているが、抵抗すればするほど根っこが増えていて、しかも抵抗を止めると腕がへし折られそうな感じで他の動きがとれない。

アレックスも助けに入ろうとしているのだが、根や蔦が消しても消しても現れては邪魔をしていて、自分のことに精一杯。


この悪魔、物凄く頭を使ってくる。やばい。どうしようこれ。


『しかし、なんで本気を出さない?』


根っこの一部が変形し、悪魔の姿に変わる。

冷たい手が頬に伸びて、鋭い爪を立ててくる。


『その気になれば魔力を開放してこの辺一体を消し飛ばすことも出来るだろうに、そこの人間に配慮しているのか?』


「何を言ってるんだこの悪魔は。出来るわけねぇだろそんな事」


『あくまでも人間らしく振る舞いたいっていうのね。分かった。じゃあ否が応でも本気を出させてやろうじゃない。このジョウジョ様が直々に手助けしてやるんだ、感謝しな!!』


ゾワリと鳥肌がたった。

悪魔、ジョウジョがアレックスに手を翳す。


「!!?」


悪魔の腕が変形して物凄い勢いで伸び、意識の薄い箇所から接近してアレックスの太ももに突き刺さった。


「うぐっ!ーー!!!?」


その隙をついてその他の根っこが一斉にアレックスに襲い掛かり、あっという間に姿を消した。


「アレックスーーー!!!!」


飛び散る赤に、凄まじい怒りと共に視界が揺れた。

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