第314話 号泣

大型ネコの足に踏まれて、桃色の青年が地に伏せていた。正直に言うと、飛びかかってきた瞬間ネコに踏まれたのだが。その衝撃で気絶しているので結果オーライと言えよう。


『どうする?こいつ』


「やる?」


と、アレックスが銃を構える。


「いやいやちょっと待てって」


青年の近くに膝をつき首元を見てみると、見覚えのある物が嵌まっていた。隷属の首輪。魔力を見てみると、逃げていった男達の方向に伸びている。


「どうしたんだい?」


「いや、この首輪さ、外して良いと思う?」


「首輪?」


なにそれと首を捻るアレックス。どうやら隷属の首輪を知らないらしい。説明してやるとファ⚫⚫!!!と激怒していた。


「敵でもなんでもこんな録でもない首輪は破壊すべきなんだぞ!!!」


「ですよねーー!!よし解除!!」


バチンと音を鳴らして首輪が外れた。

形状を見る限り、オレの付けられてたやつやチクセのやつよりも高そうなものだった。だが、そんなの関係ない。


「はい喰って」


焚き火を囲むように置いておいた暴食の主に投げ込む。ちなみにさっき飛んできた紙飛行機らしき物も念のため設置してたら吸い込まれていた。何だったんだろう、あれ。


「後はどうしようかな、こいつ。奴隷とかなんかそういう感じのだったっぽいから、放置してたら勝手にどっか行ってくれたりしないかな?」


『寝てるうちに襲われて身ぐるみはがされて逃走とか?』


「え、困る」


必要な装備から取られたら元も子もない。特に神具。相談の結果とりあえず一旦拘束して、朝交渉の末どうするかを決めようとなった。


翌朝。


「ええ…」


縄が解かれていた。


と思ったらすぐさまネコが捕獲してきたのか襟首くわえられて戻ってきた。青年がバタバタ暴れるが、そんなのネコは知ったこっちゃない。


「お前、離せよこの魔物!!このままじゃ俺死ぬんだって!!!」


『何で死ぬって?』


「うわああああっ!!!!しかも喋るのかよ!!!」


顔を青くしながらますます暴れるが、ネコは次第にそれが面白いのか目をキラキラさせ始めていた。これは駄目だ、青年が本気で死ぬ。


「ネコ、振り回すのはダメ、踏んでいいから取り合えずペッしなさい。ペッ」


『……ペッ』


「!! ぐへぇっ!!?」


ペッした瞬間にネコが逃げ出そうとした青年を踏みつけた。

カエルの様な声を聞いて寝ていたアレックスがなんだなんだと起き出した。


「取り合えず、盗ったものを返してください」


「は?俺が盗ったっていう証拠でもあんのかよ!」


「服の中にアレックスの鞄。背中側にオレの弓と矢三本」


「……チッ」


舌打ちしながら青年が鞄と弓、矢を地面に置いた。実は万が一の事を考えて片目を粒子モードに変えていた。すっげえ疲れるし頭痛くなるけど、やってて良かった。


「盗ったことは謝る。でも仕方なかったんだよ!このままだと確実に俺は気が狂って死んでしまうだ!!少しでも手土産を持って行かないとどっちにしたって殺されちまう!!」


「首輪に?」


「そうだ!首輪に!!」


「首、触ってみ?」


「…は?」


なんだよと、青年が首に手を当てた瞬間、信じられないと目を見開いた。何度も何度も両手で障り、動きを止める。


そして目からボロボロと大量の涙を流し始めた。


「ちょっとそんなに泣かなくても…」


「もう犬の真似させられなくて済む…、サンドバッグ代わりも、むさ苦しい糞野郎のためにお姉さんをナンパしなくて済む!!!!イヤッホウ!!!!」


「!!?」


うつ伏せになりながらの号泣でガッツポーズ。


「へっへーんだ!!!自由になればこっちのもんだ!!!ざまーみやがれイ⚫ポ野郎!!!金⚫雷に撃たれて黒焦げになって死んでしまえ!!!!」


「…………」


あまりのテンションにドン引き。アレックスも困惑した表情でオレに視線で「なにこいつ?」と訴え、ネコもジタバタ喜びに暴れるこいつを離して良いかと視線で伝えてきた。

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