第313話 悪夢の最中
青年は動かずに標的を伺う。何の変鉄もない青年冒険者二人組。黒猫に青毛の駿馬に
きっと高級品だ。
「おい、ラビット。サボんなよ」
「…サボってないすよ」
「少しでも不穏な動きしたら殺すからな」
「分かってますって、信用してくださいよ先輩」
「お前みたいな誰にでもベロだして尻尾振る奴を信用?はっ!ああでもこれが終わったらたっぷり可愛がってやるからな。へっへっへっ」
足音が遠ざかる。
青年は心の中で盛大に舌打ちした。
首にある鉄の感触が憎い。
でもまだ殺されないだけマシだ。
どんなに屈辱的でも、大人しく従っていればとりあえず生きていられる。あいつらをやれば、隙を見て座標を奪えるかもしれない。
生け贄にするのは心が痛いが、しょせん弱いものは狩られるだけだ。
「…!」
二人とも横になった。
駿馬と
馬鹿だな、今まで運が良かったんだろう。
それはちょっとした反応でも起きられる
青年は笑んだ。
憐れみを込めて。
「……」
そっと立ち上がり、近付いていく。
手には眠り香の粉を紙に包み折っていく。鳥ではない、竜でもない、カミヒコーキと呼ばれるそれは細長い三角の形をしていて、風にのって飛ぶもの。それが火の中に落ちた。
後は10数える間もなく標的は眠りこけるだろう。
口許にマスクをつけて合図を送る。
先輩達が各々武器を持ち標的に近付いて行った。口許に笑みを浮かべながら剣を振り上げ、青年は心の中で神に祈りを捧げた。どうかあまり抵抗してくれないように。
ズドンと爆音と共に空気が震え、青年は驚いて振り返った。
剣が真っ二つに折れて宙を舞っている。
そして、一番驚いたのが、雷を纏った黒髪の青年が次々に武器を弾き飛ばし先輩達を無力化していたことだ。
「ラビット!!!こいつを殺せ!!!」
「!!」
腕を押さえる先輩から命令が飛んできた。
首輪から早くしろと急かすように痛みが走る。
青年は体の無意識な抵抗を押さえ込み、双剣を取り出すと、黒髪の青年に襲い掛かった。刃にはたっぷりと毒を塗り込んである。掠めるだけでも秒で動けなくなるヒダサソリの猛毒だ。
「ふっ!!」
素早く接近し、剣を振るう。刃先が手の甲を掠め、終わりだと思った瞬間、視界から青年が消え鳩尾に衝撃が。
「ガハッ!?」
すぐさま体制を立て直そうとするも、脚が震えて立てない。しかしそれは奴も同じだろうと顔を上げて愕然とした。奴はふらつくどころかピンピンしていた。
ならばもう一度、剣を投げてやろうと振りかぶると、剣が弾き飛ばされた。
「くそっ!!ダメだコイツら!!逃げるぞ!!」
先輩達が武器を放って逃げ出した。
「おい、ラビットは!?」
「置いていけ!お前、俺らが逃げ切るまで足止めしておけ!!死んでも引き留めろ!!」
またしても首輪から痛みと共に命令が飛ぶ。
クソッタレ!!
そう思いながらも体は立ち上がり、丸腰ながらも目の前にいる敵に飛び掛かっていった。
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