第312話 狙われている

黒い棒だったから間違われたのだと思い、装飾品を付けようと思ったが、止めた。暴食の主巻いたら鞘を喰われるし、かといって適当な紐を巻くのもどうかと思ったからだ。でも似合うものがあったら付けてみよう。


船が来たのでそれに乗り込んでレイライン川を航る。今回はそこまで激しくないので灰馬はそのまま乗せた。多分二時間ちょいほどで着くだろう。


雪解け水はとても冷たくて、魚も泳いでいない。


だけど水精スーイは清らかな水が嬉しいのか集まってきていた。世界はピリピリしてますが、精霊達は変わらず自由気ままです。


対岸に着いて灰馬と荷を下ろし、もうひとつの橋の都ルルーレへと入る。ここは更に戦争の情報がまだ少なく、活気に溢れている。


『(呑気よな)』


「(大陸は広いんだ。仕方無いさ)」


「二人だけで会話はズルい!俺も入れろ!」


「呑気だなって話してた」


「俺がかい!?」


「違うよ」


ギルドを覗いても、ルーラルに比べて募集中の紙に群がっている人は少ない。それにここは何故か魔物の被害が少ないように思える。


少ないに越したことはない。


「俺の駿馬が欲しいんだぞ」


「韋駄天あるじゃないか」


「オレに常に走れって言うのかい?」


「レッツ体力作り!」


「むぐーっ」


「嘘だよ怒んなよ」


しかし、徒歩だとオレの移動速度が1/3になっているのは事実だ。この際買ってもいいかもしれん。幸い金はあるし。


ということで駿馬を買いに来たのだが、良いのがいない。仕方がないので爬竜馬ハレーバを買った。


どのくらいの速度が出るのか不明だが、アレックスには策があるらしい。


「なるほど、考えたな」


「だろ!」


韋駄天を爬竜馬ハレーバに装着。これでオレの灰馬と並んで走れる。


「いやぁ、買ってくれてありがとう!」


「お礼はその鞄の中に備蓄している肉な」


「勿論だ!」


早速馬具と荷物を設置して乗り心地を確認すると、相性が良かったらしい。すぐさま『レックス』と名前をつけていた。


それでは出発しようと地図を確認していると、ネコが顔をあげた。


「どうした?」


『今なんか視線が』


「視線?」


辺りを見回してもそんなものは確認できない。


『あれー?』


「気のせいじゃない?」


『かなぁ?』


「早く行こうよ、お腹すいたんだぞ」














夜になり野宿していると、視線を感じた。

これか、ネコが言ってたやつ。


「アレックス、ちょっとネコ持ってて」


「? いいけど」


ネコを持たせると、すぐさま尻尾を使ってアレックスの魔力に干渉した。

それが分かったのか、アレックスの目が輝く。


「ホウ!!俺も混ぜてくれるのかい!?」


「(馬鹿!!!口に出すな!!意味無くなるだろ!!)」


「(おっと失敬)」


慌てて口を閉ざすアレックス。


「火を動かすから、離すなよ。後でちゃんと手伝ってもらうから(大人しく座っとけ、話がある)」


あくまでも自然に火を動かし、火力を変えているように見せる。元々夕飯を作る予定だったし不自然じゃないだろう。


「おーけー!任せとけ!」


火の側に座り、ネコを撫でながら指示を聞くアレックス。その間、ネコは絶えず辺りの気配を探り、居場所を特定し終えていた。


『(いた。一人、遠くに三人。ならず者かな、ライハの刺客とかじゃないみたいだけど)』


「(刺客?)」


「(オレ裏で指名手配されてるんだよ)」


「(マジかよ、見た目によらず悪だったんだな!)」


「(誤解です!)」


ネコの情報だと盗賊らしい。

街で金を持ってそうだと思われたらしく、標的にされてる。人間のみで、その内一人が魔力持ち。前方にいるのは若い青年で、こちらを絶えず窺っている。


「(こっちから誘ってみるか。寝てる時に来るはずだから、一応ジャスティスは常に撃てるようにしておいてくれ)」


「(ふふふ、またしても正義の鉄槌をくだ──)」


「(──さないで!アレ人に向けたら死んじゃうから!無力化だけ!)」


「ちぇっ」


「舌打ちすんな、肉寄越せ、焼くから」

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