第311話 劇的ビフォーアフター
ルツァ騒動から3日経ち、レイライン川を渡るために、橋の都ルーラルへとやって来たのだが、川の水が増水して危険なので船が止まってしまっていた。
なんでも突然山からの湧水が増えて、船が持っていかれたらしい。今新たに船を発注しているので、それが来るまでは足止め。
ネコに飛んで運んでもらう手も考えたが、増水の監視で人が多いし、何よりネコが。
『そんなに運べない』
と嫌がった。
確かにただでさえ広い川幅が二倍になってるもんな。ここは雨が降ればすぐさま大洪水を起こすので橋が掛けられない。その代わり船で向こう岸まで渡すのだ。なのに何故橋の都と言われるのかは、増水で街に水が上がってきても大丈夫なように、高い位置に建物を建て、その間にたくさんの橋が掛かっているから。
実際もう街は水が満ちていて、川の中にある街状態だった。
なので、今、宿屋で休息をとっている。
「矢も届かないしなー、流石は自然様だよ、手も足もでない」
「ルツァ退治してもまさか既に封鎖されているなんて思わなかったよ!こりゃ一本取られたね!」
何が楽しいのかケラケラ笑うアレックス。
「ルツァ退治できたからオレは良かったけど。にしても山でなんかあったのかな?」
『悪魔とか?』
「とか」
「考えすぎは体によくないぞ、それにギルドに行ってもそんな情報誌無かったじゃないか」
「まーね」
何かの異変があると即情報が上がる。最近なんか特にだ。南の襲撃で連合軍の緊急募集の紙も張り出され、ハンター以外の村人も紙を見つめる人がいた。
募集内容は簡潔。
条件は世界のために戦えるもの。
それだけだ。
賞金なし、敵の情報もなし、しかしそれがでかでかと掲示板に貼られていた。
集める気があるのか正直不明だが、南の情報がようやくここまで上がってきた、それによると、ルキオとビャッカ諸国の南部が激戦地域になっているという。
海から怪物が上がってくるのを現在ルキオの年中海龍と戦っている猛者が応戦しているらしいが、正直、倒しても倒してもキリがなく、補給もままならないのだそうだ。
胃の辺りが締め付けられそうな感覚になる。
(カリアさん達の機動力を考えると、きっとモントゴーラを越えてビャッカ諸国の北部へ辿り着く頃か)
イリオナであの被害だ。
ルキオの被害なんて想像もつかない。
「おーい!またボーッとしてる。考えすぎは体によくないと言ったけど、ボンヤリし過ぎるのも体に良くないんだぞ!」
「注文が多いなお前」
「君が極端なんだぞ!せっかくの街なんだし、面白いのないか見て回ろう!ネコも行くだろ!?」
『行く行くー!』
「わかった、行くからちょっと待て」
そんなわけで街に出て、有名な鍛冶屋があるからとアレックスと共に行った。なんでも、どんなにボロボロでも磨いて新品のようにしてくれるのだそうだ。
「ジャスティスを綺麗にしてください」
と、アレックスが愛銃を手渡す。
確かに店も綺麗だし、主人もお手伝いさんらしき少年も几帳面そうだから信用はできそうだ。
ていっても、オレの武器は弓と黒刀と短剣の三つ。弓と短剣は常に磨いているのでピカピカだ。
「…傷とかついてないけど、せっかくだし磨いてもらうか」
ということで、黒刀を預けた。
どうピカピカになるのか楽しみである。
「それでは二日後取りに来てください」
主人に磨き代を手渡し、二日間は魔法の練習をしたり魔方陣を描いて過ごしていた。その結果、オレは氷結魔法を習得した。といっても氷の塊を腕全体に纏わせるか、冷気を発生させるくらいしかまだ出来ないが、練習しまくった中でこれだけが異様に習得率が高いのは、雪崩に遇ったからだろうか?
そういえば、ザラキの魔法豆知識で、属性はその者が経験してきた体験や、馴染みのあるものから決まりやすいとか言ってたし。オレの電気はきっと日常的に電気が無かったら生活できてなかったからだと推測している。
短時間の停電でも大騒ぎだったし。
とすると、他の属性もその経験をイメージしながらやると上手く行くのか?
「またライハが実験しててつまんないんだぞ」
『じゃあ、ネコとあっち向いてほいしてようよ』
「なにそれ!」
そんな感じでずっと練習していたら、オレは更に水溜まり程の範囲の地面を凍結させるのと、指先から水が出せるようになった。
ささやかな魔法である。
でもスタンガンから、多様性を帯びた雷に成長させることができたので、オレは頑張ってこれらを攻撃に使えるように成長させようと思います。
そうこうしているうちに二日経ち、黒刀を取りに行くと。
「…………………あの、オレの黒刀はこんな立派なものではありませんでした」
なんということでしょう、あの全体的に黒いが中にラメが散りばめられた棒がちゃんとした剣になっているではありませんか。
いや、え、これ本当にオレの黒刀?
「ほんっとうに申し訳ありませんでしたーーーーー!!!!」
そして鍛冶屋の主人とお手伝いの少年が二人して全力で謝罪を初めて更に困惑。
「実は…、この子が貴方様の武器を間違えて熔解炉に突っ込んでまして!!どうにかして元に戻そうと思ったのですが元に戻らず!!せめての償いで持てる限りの技術で剣に仕上げましたので、どうか許して下さい!!!」
「まさかの玉鋼に間違えられるとは」
改めてかっこよく仕上げられてしまった黒刀を見る。色は変わらずラメもそのままだが、反射によって輝きかたが異なる。
むしろ、お礼を言うのオレの方なんだけど。
「いくらですか?」
「へ?」
「磨き代だけじゃあ足りないと思うので、追加課金をしようと」
「間違えたのはこちらなので要りません!!!」
「いや払わせてください」
「要りません!!!」
「じゃあこれに合った鞘を下さい、それの代金で払います」
「鞘の代金も要りません!!!」
主人が一歩も引かない。
むしろ、俺のプライドの為にも払わないで下さい!!!とまで言われ、結局磨き代で剣一式を手に入れてしまったのだった。
せめてものお礼に、行く先々で宣伝しよう。
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