第315話 ラビ

話を聞くに、こいつは一年近く前に拉致され、そこから持ち主を転々としてきた奴隷で、元々は臓器売買される予定だったけど何とかして逃れたらしい。


何をしたのかは企業秘密と言って教えてくれなかったけど。


「取り合えず、全力で礼を言うわ。んで、首輪取ってくれたから何か恩返したいけど、出来ること限られるからお手柔らかにしてください。あ、俺、ラヴィーノ・スパニーアって言います。ラビでいいです」


「じゃあラビよろしく。オレはライハでこっちが───、ラヴィーノ?」


「はい?」


「ラヴィーノ・スパニーアって言った?」


「言いましたけど」


「ライハ?突然どうした?」


何か変な事言ったかなとハテナを浮かべる青年ラヴィーノ。オレはその名前を聞いてチクセ村の事を思い出していた。


弟を助け出せなかったと、叫んでいた。


「レーニォ・スパニーアって名前に聞き覚えは?」


「え、なんで俺の兄貴の名前しってんの?」


お前かああああ!!!!

オレは心の中で全力で叫んだ。


「お前次の街で虎梟をチクセ村に飛ばせ!!」


「顔怖い顔怖いあと肩痛いから放して」


「ライハ一旦放して深呼吸しろ、ヒッヒッフーヒッヒッフー」


『アレックスそれ多分深呼吸じゃない』


落ち着いたところで改めて自己紹介をして、ラヴィーノを隣の街まで送っていくという話をしたら猛反対された。曰く、役に立つから付いていくと言われた。


「いやでも危険だよ?頻繁に魔物と戦うし」


「大丈夫だ。確かに俺はひ弱そうな見た目してるし実際そんな強くないけど、裏方の作業は大得意だから任せてくれ!」


「えーと、例えば?」


「情報を仕入れてくるとか、物を持ってきたりとか、罠を設置するとか」


情報は嬉しいけど、スマホとかあるしな。罠を設置も、基本移動しているから必要無しだし。


「美味い飯を作れる」


「採用!!!」


『採用!!!』


「君たち安易すぎないかい!?」


『正直そろそろ焼肉パーティー飽きた』


「アレックス、オレ達は肉を焼いてパンに挟んで食べることしかできない。それは何故か?オレ達は料理ができないからだ」


「料理してるじゃないか!肉を焼いてる!」


「それは料理じゃ無いんだよ!!!しかもたまに焦がすじゃん!!!考えてみろアレックス、こいつが入って料理を作ってくれる!!美味いものが食べれてやる気も出てきてとっても幸せ!!ラヴィーノも恩が返せる!!皆ハッピーだ!」


「お、おおう…。君の熱意は伝わったよ」


そう、オレ達は焼くか薫製しか能がない。

アレックスに関しては焼くことすら怪しいのだ。火力が強すぎて外は丸焦げ中は生!!ってのが圧倒的に多い。確かに二人とも回復能力は優れていて、オレもネコも生肉平気だしアレックスも双子の共鳴で何とかするだろう。でも出来るならば美味いものが食べたい!


カリア達といたときは平気だったのだが、それは恐らく肉の質の違いだろう。ヴルスト美味いけど、それ以外は何故かみんな固くて少し苦い。何故なんだ!


「えーと、付いていっても良いって事?」


「是非来てください。命の危険になったら逃げていいから、出来るだけ美味いものを作ってください」


「よし分かった。最高に美味いものを振る舞ってやる!」













そこからは順調に進んでいく。しかもご飯が美味しいのでやる気も上々だ。ちなみに鍋とかその他諸々を買ってアレックスの鞄の中に詰め込んでいるので、旅をしているのになかなか贅沢をしている気がする。


しっかし、魔物の数が増えてきたな。


そこそこ強い魔物と遭遇して戦闘になり、ラビが木に登って気配を消していた。姿ごと。なんとラビ、少しだけ光彩魔法が使えるらしい。なんでも少し前の雇い主が光彩魔法の使い手で、見よう見まねで練習していたんだと。ちなみに髪の毛の色はその雇い主のイタズラで変えられてしまったもので、本当はオレンジ色をしていた。


「おーい、もう下りてきていいよー」


木の上にいるラビに声をかける。


「本当か!?本当にもういないか!?」


「いないいない」


「ラビは本当にビビリだな。それでよくライハに切りかかっていったね!」


「首輪の命令だったからな。じゃなかったら絶対に行くもんか」


ズルズルと木から下りてきて、まだ警戒するように辺りを見回してオレ達が仕留めた魔物を見て「うげぇ」と声を上げた。


「細切れじゃないか…」


「だってめっちゃ再生するんだもん」


ナメクジみたいな見た目の魔物は切っても切っても再生するので、徹底的にミンチにした。普段は雷を使って即死させるか、ボコなぐりだったのが、黒刀から黒剣になったので試し切りすると笑っちゃうくらい斬れるので、しばらく剣術を上げるために戦闘中は魔法を控えている。


『ねぇねぇ、なんか変なの見付けた』


ネコが辺りを偵察しにいっていると、口に何かをくわえて戻ってきた。


受け取ると鎧の一部のようだった。

引き裂かれたみたいな感じで、激しく変形している。


「……なんかヤバイのいそうだな」


「だね!」


「なんで笑ってんの君ら。怖いじゃんおかしくない!?」

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