第297話 山脈越え.10

「こいつはうめえ!!!」


タクトリアス、ハチ肉のステーキで御満悦。

なんと三皿お代わりをして、保存していた酒を一瓶空けると言う食べっぷり飲みっぷり。なんでここの世界の人は蟒蛇うわばみが多いのか。


と、未成年だと言い張っていたのにも関わらず酒強制ラッパ飲み事件から少しずつ飲むようになってしまったオレが言えることではないが。


今回は飲まなかったよ。本当だよ。


「ふはぁ、満足。そしてこれか、教えてもらった術と言うのは」


カツキがほぼ完成させた魔方陣を手に取り目の前でひらつかせる。後は線を一本入れるだけで発動する未完成のものだが、万が一の為にと保存が効く。


それをタクトリアスはニヤニヤしながら眺め、こちらを向いた。


「こいつはギリスの古ーい古ーい由緒正しい、魔方陣だな。山越えの時に体に貼るウァームの魔方陣だ。またよくこんなのを練習してるね。最近じゃあ簡単な保温の魔方陣も出てるのに、珍しい」


簡単なのあるんだ。


「ギリスの知人に貰ったんです」


「じゃあそのギリス人はきっと真面目なんだろうね、細かく説明も付いてたろ?いや、古いのが悪いとは言わない、むしろこういう魔方陣から覚えた方が特だ。よく言うだろ?手頃なお湯より手間をかけたスープのが美味いって。構造が難しい分、強力で、複合型魔方陣にはだいたい古い魔方陣が使われてるから、そういうものに関係するんだったら、積極的に使うべきだ。現にーー」


タクトリアスが上着を脱ぎ、裏地を見せると、そこにはオレが何度も何度も繰り返し見た魔方陣が描かれていた。


「ーー私たちプローセルン飛行部隊が積極的に使ってるからね」



ウィンクしながらタクトリアスが誇らしげに言う。


確かにこの魔方陣、プローセルン人が好みそうなゴツい形状してるもんな。


詳しくこのウァームの魔方陣を説明され、上着の背中側に大きく描くと最大4日持つらしい。ただの紙に描くより服の裏地に大きく描くと、魔力消費が少なくなるらしい。原因は不明だが、為になった。


早速上着の裏地に魔方陣を描いた。


荷物を纏め、お世話になったリトービット達に感謝を伝え、さあ行こうとしたとき、何やらタクトリアスが大騒ぎをしていた。


なんだと駆け付けるとタクトリアスが灰馬の馬具を見て目を輝かせていた。


「お前結構目利き良いじゃないか!これプローセルン製の中々の高級品だぞ!!」


「そうなんすか。どうりで高いと」


そして店員の推し方が凄かったのは高級品だったからか。


「これがあるだけでも運ぶのが凄い楽になる。実はここに来る前ぜってー山舐めてろくな装備も付けてないアホ何だろうな運ぶのが大変なんだよなめんどくせーとか思ってたけど、前言撤回するぜ!」


「凄い正直で逆に清々しい」


『ネコこの正直さ、凄い好き』


「お前もズバズバ言うもんな」


「ほれほれ見てねーで、設置手伝え!」


タクトリアスと協力で大鷲のビルケに荷物を設置し、馬具の飾りかと思っていた金具に大鷲の運搬用のロープを繋ぎ、暴れないように頑丈な魔方陣を描いた布で灰馬を固定すると、早速乗り込んだ。

普段の鞍ではなく二人乗り用の鞍の後ろに乗り、ベルトで体を固定した。その後、タクトリアスからこれを来ておけと更なる上着を渡された。


「もうウァームの魔方陣を発動させてますけど」


「バッカ!山脈越えナメんなよ!雪崩に揉まれるよりも早く体温奪われるんだからな!死にたくなかったら言うこと聞け!ネコもだぞ!」


『はーい!』


早速オレの服に潜り込むネコ。


『よし!』


そして胸元から顔を出す。

定位置。


「んじゃ!よろしく頼んだぞ!タクトリアス!」


「うむ、カツキも魔物に食われんよう用心しておけ!」


「ライハとネコとハイバもな!また来るなら夏に来い!冬よりは安全だ!」


『またお風呂入りに来るよ!』


「カツキありがとう!今度はお土産持参で来ます!」


「それは楽しみにしとく!」


大鷲ビルケが翼を広げると、急いでカツキが跳ねながら離れていく。


そして、寝床の洞窟付近で手を振ると、飛ばされないようにソッとドアを閉めた。


「行くぞ!掴まっとけよ!」


ドンッという音がして、体が鞍に押し付けられる衝撃が掛かり、冷たい風が容赦なく襲い掛かってくる。目を開き、ようやく地面がはるか下方へと遠ざかっているのに気が付いた。


「どうだ速いだろ!これからあの山を越えるからな、吹っ飛ばされないように気張っておけよ!!」


タクトリアスのテンションが大鷲の上昇と連動するかのように上がっていく。目の前は壁のように聳え立つ山で、頂上付近では風が強いのか雪が白い尾を引き、雲が千切れてバラバラにされている。丁度、その辺りを飛び越えようとした鳥が風に負けて明後日の方向へ吹っ飛ばされて墜落するのが見えた。


あそこ、超えるの?超えられるの?


「ひゃっほおーーーーう!!!!」


その日、タクトリアスの楽しそうな声が山脈にいつまでも響いていた。

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