第298話 救出せよ!
とんでもない悪天候の中ジェトコースター並みに視界がグルングルンと回転したのにも関わらずグロッキーにならなかったのは、成長したと思っていいのだろうか。
いやしかし、まさか半日であの山脈を越えるとは思わなかった。タクトリアスは風を利用したんだと言っていたが、まさか風をとらえるだけであんなに加速するとは思わなかった。
これは絶対自力で飛べる方法を見付けよう!そっちのが楽しい!!
「そら見えてきたぞ、あれがドルイプチェのフェルネ街だ」
『森』
「前見ろ前、すんげぇゴツい城壁がある」
『ほんとだ、ゴツい』
前方には森から突然赤茶色の高い城壁が生えている。ゴツいながらもシンプルで、余計な飾りは無いが、上に設置された無数の大砲を見て、外敵は殺るという無言の圧を感じた。
ゆっくりと大鷲が下降する。理由は何の連絡もなしにプローセルンの大鷲が街に近付くと外交問題になるから。
適当な森の中に着陸して、灰馬と荷物を下ろす。灰馬は少し酔ったのかふらついていた。珍しいこともあったものだ。それをネコが面白そうに眺めてた。
「そうだ、報酬の件なんだが、カツキが渡そうとした魔方陣あるだろ?あれもう持ってるから別の魔方陣を渡してくれ」
「確かにそうですね。ちょっと待ってください」
鞄の中からニックの本を取り出すと、それをタクトリアスがあっという間もなく横から取る。パラパラとページを捲り、気に入った魔方陣を見付けたらしくとあるページを細部まで確認すると、ポケットのメモ帳にその魔方陣を描き写した。それにしても、写すの早い。慣れているのか。
本を閉じ、返された。
「良い本だね、大事にしろよ」
そんな言葉付きで。
「ありがとうございました。お気をつけて」
「そっちもな。あ!そうだドルイプチェではビールとヴルストを持って交渉に行くとだいたい上手く行くから、覚えとけよ」
「わかりました!」
「じゃーな!」
タクトリアスは大鷲ビルケに跨がると、あっという間に空の彼方へと飛んでいってしまった。風のような人だったな。
『ヴルストってなに?』
「でかい腸の肉詰め」
『肉は正義だ』
「そだな。よし行くぞ!」
『うーい!』
体調が回復した灰馬に乗り込みフェルネ街へと向かう。ここら辺は魔物の出現率が多いらしく、街に行く途中で三回ほど遭遇した。ほんの二時間で。魔物密度が高い。
さて、あと少しで街につくと言うときに、怒鳴り声が聞こえて茂みに身を隠す。灰馬に伏せから動くなと指示をし、ネコと共に隠密活動を開始。
殆ど音を出さずに素早く移動をし、獲物を確認。
茂みの間から様子を見てみると、柄の悪い男共が一人の金髪の青年を連行しているところだった。その青年は酷く暴行され、出血も酷い。足もふらつきもう歩けそうもないのに、縄で無理矢理歩かせているような感じであった。
それにしても、奇妙な格好をしている。
村人でもなければ、街の人のようでもないし、かといって商人でもない。ならばハンターかと言われても首を捻る。なんか違う。なんか違うのだが、それに近い感覚は感じる。
相当抵抗したのだろう。
じゃなければ、青年の後ろにいる男が鞭を持っている訳じゃない。きっと膝をついたり立ち止まったりすればあれで叩くのだ。証拠に出血は背中側が酷い。
「…鷲ノ爪かな」
『かな? でも、完全に人拐いだね。助ける?』
「そりゃ、もちろーー」
ブブブとポケットの中でスマホが震える。
なんだと開いてみると、神からのメールだった。
[件名:緊急
要件:目の前にいる金髪青年を救出せよ!!絶対に死なせるな!!!]
もしかして目的アレ?
「まぁ、助ける気満々だったし。行くぞ、ネコ。先制攻撃だ」
『あいあいさー!』
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