第260話 素材を集めよ!.13

向かう先はタキオトシの森。

ここは山之都の山の麓に広がる豊かな森が広がっている。タキの由来は様々だが、タキや、山之都の幾重にもわかれた水源が流れ込むから多岐タキという説もある。そんなわけで山からの栄養たっぷりの水によって育った森は様々な資源に恵まれ、ウォーローや山之都にとって宝の森なのである。


今回の依頼の場所はそこなのだが、まず先に終わらせなければいけないものがある。


「先に準備してるから、頼んだよ」


「わかりました、きちんとやっておきます」


「程々にね」


「無理はすんなよ」


「うん、そっちもお願い」


カリア達に手を降り、見送る。

姿が見えなくなってから、オレはギルド長から教えられた道へと歩いていった。


地図を見るにこれから二つ目の曲がり角を曲がると、人気のない路地裏を通れば薬屋への近道になる。それはあのギルドにいる人間なら誰でも知ってるもので、今オレが通るこの道もギルドの人間なら通るが、一般人は避けるほど安全が保証された道ではないのもギルドの人間なら知っている。


浮浪者が住み着いていたり、または金を持っていると思われているハンターを狙っての強盗もいたりする。


だが、それを誰も自警隊に言わないのは、一種の度胸試しの道として面白がって使っているから。新人にわざと歩かせて襲われてるところを救って恩を売り付けたり、または油断してるところうっかり財布をすられた奴を笑いのネタにしたり、後は撃退して鬱憤ばらしにしたりと用途は様々。


つまり、ここを通るなら、そう言うことも視野にいれて自己責任で通れって事だ。

ちなみにオレが選ばれた理由は足を掛けられる対象になっていたから。あと、多分みんなで行くよりも一人の方が釣れると踏んだから。


「(ネコ、どんな?)」


『(いるいる。右手前に三人。左奥に五人。屋根に四人かな?)』


「(なんか、上の人達投げ網みたいなの持ってない?)」


『(え?………あー、ほんとだ)』


ネコがヒクヒクと鼻を動かして臭いを嗅ぐ、風には鉄の重りに、網特有の臭い。まぁ、オレは粒子を見る目でそれっぽいのが見えただけなんだが。それっぽいってか、それっぽいのを持ってる姿勢が見えたし、なんか縄が擦れてる音が聞こえた気がしたから聞いただけなんだが、ネコの様子を見るに当たりみたいだな。


普段網なんて使わないから、一瞬分からなかった。


まさかとは思うけど、上から網落として数人係でボコ殴りにされてるところを助けて俺の方が強いアピールじゃないだろうな。どこのヒーローごっこする子供だよ。


それでも一応警戒しつつ、だけど隙を見せながら罠へと向かっていく。


「ーー来たぞ、そろそろ準備しとけ」


そして小声で指示を出す声。

ネコと魔力融合して、さらに聴覚共有中は、オレも猫と同じくらいの聴力を得ることができる。それこそ緩く曲げた大きめの画用紙を耳近くに設置して音を集めた位には聞こえる。

ただ、難点なのは小さな音が大きく聞こえるから喧しいってくらいかな。


擦れる音がこちらに近付いてくる。


前方からも立ち上がりかけたときに鳴る布ずれの音も聞こえた。

そろそろか。


「うりゃああ!!」


上にいるうちの一人が声を上げながら網を投げ落とした。不意うち狙いならそこで声を出しちゃダメじゃないか。カリアとキリコに怒られるぞ。


空一杯に広がる網を見ながら、黒刀を取り出し、網の中央から横を狙い、回転をさせながら投げた。黒刀は網に接触すると網を巻き込みながら落下した。


それを見て隠れていたところから飛び出し掛けていたハンター達が一瞬躊躇するが、オレがパッと見丸腰なのを確認すると勢いのままに棒切れを振り上げ襲ってきた。だが、やはり計画と違うという動揺と焦りのせいか動きも鈍く、武器を振るときも動作が必要以上に大きい。


とりあえず最初に襲い掛かってきた三人の攻撃を回避しながら、カリアに教え込まれた突かれると物凄く痛いツボを突くと、やはり痛かったのか三人とも武器を取り零して腕を押さえながら痛みを耐えていた。その内の一人は涙目だ。わかる、痛いよな。オレも痛かったよ、それ。


「野郎!!調子に乗りやがってえええええ!!!!」


そして残りの五人も武器を振り上げやって来た。

しかもその武器はひのきの棒とかではなくガチな剣とかである。殺す気なのかな。オレは残念ながらここに来て人を殺す事に慣れてきてしまっているので、もし、相手がそのつもりなら、こちらも容赦はしない。

殺ると決めたからには、殺られる覚悟を持って殺る事。カリアの教えの一つ。


獲物といえど、あちらも意思を持つ生き物だ。反撃はあるものとして瀕死でも油断はしてはならない。

それは人間も同様。


動けなくさせて、もういいだろうと目を離した瞬間、隣の仲間が殺されたという話はフリーハンターの間じゃ珍しい事ではない。だから、常に命の取り合いをする時は真剣に向き合わないといけないのだ。


だが、今回はギルド長とカリアからのお約束もあって殺生はご法度である。禁止をされているからには何とかして無力化しなければならない。


始め威圧で済めば良いと思ったけど、こんなに興奮したやつらに果たして聞くのかも疑問であるが、これ以上興奮させればきっと後先考えずに向かってくるかもしれない。


それだけは避けないと。


じゃないと剣闘士の時の感覚が甦ってしまう。あん時は色々麻痺してて取り合えず相手を早く殺さないとってなってたから。

恥ずかしい思い出だ。


「死ねええ!!!」


目の前で、剣を大きく振り上げる。


その瞬間、オレはずっと周りからの不評で押さえ込んでいた魔力と気配を解放した。


途端、ズズズと体の内から獣時代に獲物を前にしたときの喜びの感覚が沸き上がってくる。きっと、あの頃のオレなら目の前のこの男もただの獲物として見てなくて、お腹が空いていたらきっとすぐに飛び掛かって噛み殺して喰ってたんだろうな。口の中に温かいものと固いものを噛み砕く感覚が甦る。角兎ホーンビットの焼いた肉も美味いけど、あの上質なーー刺身ではないがーー生肉に血の良い感じの塩味が利いてとても美味かったな。内臓もなかなかだったけど、やっぱりオレは首や太股の噛みごたえのある肉が最高でーーーー、あれ?


気配を解放したことで、一緒に押さえ込んでいた獣の時の感覚も飛び出して来ていたみたいで知らず知らずに生肉の味を思いだし舌舐めずりをしていた。ハッと我に返ると目の前の男が泡を吹いて立ったまま気絶していた。器用だな、おい。


「ーーーひっ」


喉が引くつく声が聞こえてそちらを見ると、武器を構えたまま血の気が失せた顔で腰が引けたハンター達。


「あの…」


もう止めませんか?と声を掛けようとした瞬間、悲鳴とも泣き声とも聞こえる声を発しながらハンター達はまるで蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。


屋根の上にいたやつも。


「………………えーと、作戦成功?」


『やりすぎだわ』


何はともあれ、牽制は出来たのでオレは気配をまた押さえ込むと、網の中から黒刀を回収し、傷薬を買うために通路を抜けたのであった。

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