第259話 素材を集めよ!.12
ギルド長スコット。
得意技が何もないところでスッ転がると周りから言われるほどに、よく転ける彼は、つい先ほども大好きなサンドウィッチと紅茶を楽しんでいるところに部下が急用ですと連れ戻しに来た。泣く泣く愛しのサンドウィッチと紅茶を手放しギルドへ息を切らしながら走って向かうと、いつもうちのギルドで暇潰しをしているハンターの横で自分の足に引っ掛かって派手にスッ転んだ。
「違う!俺じゃない!俺じゃない!俺でもさすがにギルド長にはしねぇ!」
仲間からの『お前……』という視線で焦ったようにオッドスが手を全力で横に振りながら仲間に身の潔白を訴えていた。
ああ、分かってる。オッドスくん。君は無罪だ。
「ギルド長大丈夫ですか!?」
部下に助け起こされ、ヨロヨロと立ち上がる。
一言オッドスくんに声をかけようとしたが、彼は仲間に誤解を特のに忙しいようで声を掛けるのが申し訳なくなったので、先に待たせている方達とお話をしてから彼の仲間に説明をしようと応接間へと向かった。
そこには、四人の人達がいた。それぞれが高ランクハンター特有の空気を纏いながらこちらを見て、僅かに驚いた顔をしていた。
確かに、ギルド長はそれなりに年がいった方達が多い。だから20代の男がギルド長をしているのが珍しいのだろう。
「お待たせしまして、私がギルド長のスコットと申します」
スコットはできるだけ笑顔を作り、前の四人に自己紹介をした。
それに四人も自己紹介を始める。一応資料で一通りの情報は知っているが、なにぶんフリーハンターは謎が多い。だが、目の前の人達からは良いフリーハンターに多いからっとした秋の風の様な雰囲気を感じた。悪い人たちではないだろう。
椅子に腰掛け、試験官から手渡された新しい資料を呼んで驚いた。
是非ともうちに登録して貰いたかったのだか、残念ながら既にアーリャからの勧誘を断った記述がある。フリーハンター達の半分は根っからの旅人だ。風と共に巡る人達は望まないのに無理に一ヶ所に置いては壊れてしまうのだ。
残念な気持ちを抱きつつも、資料を読み終え思考を回転させる。
対戦した相手、そして攻撃方法、連携も含め今まで評価をしてきたハンター達と配布された基準も含め、その力はAランクだろうと位置つけた。
Aランクなんて、数えるほどしかいない。
しかもこのギルドで評価できたことを神に感謝しつつ目の前の女性。このパーティーのリーダー、カリアへと顔を向けた。
「まずは、下手すれば生死を左右する試験内容のミスをしてしまい大変申し訳ありませんでした」
「いいえ、こちらとしても良い機会だったので気にしてません。むしろ感謝すらしてます」
「そう言っていただけるなんて、こちらこそ危険な
「でもそのミスのお陰でこちらはとても良い食事が摂れたので。そんな気にしなくて大丈夫ですよ。ね、アーリャさん」
食事が摂れたので?
意味が分からずアーリャを見ると、頬を染めながら「ええ、凄く美味しかったです」と言っていた。どういうことだか分からなかったが、お互いの利益になっていた様なので安心した。依頼のミスはまだ何とかなるものの、試験の内容ミスは許される事ではないから、あとで犯人を見付けてきつく言っておかないと。
「私の判定の結果、あなた方はAランクの実力があると評価しました。すぐさま更新いたしますので、ハンター登録書をお預りさせていただきます。パーティー名等は既にお決まりですか?」
「はい、先ほどようやく決まりました」
「畏まりました。それでは、こちらの書類に記入をお願い致します」
カリアが書類にパーティー名を書き込む。
ーーー 『
これは鬼の別名である。
カリアには青鬼ーー恐ろしく強い者につけられる名称で、畏怖も込められているーー、キリコには赤鬼という通り名が付けられているから鬼関係にしようというのと、パーティー印が羅針盤に似た形なのでその漢字がある羅刹に決まった。
後は、悪魔的な意味合いもあるので、丁度ネコもいるし全体を表す良い名前だと思ったから。
アーリャには苦笑されたけど。パーティー名の大半が幸運や力強さを求めて自然現象や武器の名前を入れるのが多い中、逆をいく名前はそうそう無いからだそうだ。でも「あなた方らしいです」と最終的に納得してくれた。
ちなみにギルド長スコットも予想外の名前だったのか、
「羅刹…ですか。いいのですか?これで登録しても良いのですね?」
と何度も念押しされた。
「それでお願いします」
しかし決定事項だと冷静にカリアが答えたので、受付嬢を呼んで登録をお願いした。勿論ハンター登録書も一緒に預ける。
「では、えーと、確かカリアさん達は何かの素材を集めているとか」
「はい、これです」
ギルド長スコットにリストを渡すと、ふむふむと視線を流し口のなかで何かを呟いた。
「今、丁度これらが集めやすい依頼が入っているのですが、受けられますか?」
「お願いします」
「わかりました。アーリャ、例のやつ持って来てくれないかい?」
「わかりました」
リストをカリアに返しながらアーリャに指示をすると、アーリャはすぐさま表へと出て、大きな紙に書かれた依頼書を持ってきた。
「これです。危険な森での調査と討伐ですが、ここならリストの大半が手にはいると思います」
依頼書を受け取り拝見する。
そこには山之都との国境近くに現れた魔物を調査、できるなら討伐せよとの事だった。指定された森はマクツの森よりは少し危険度が上。目撃情報では嘲笑うような鳴き声を放つ角の生えた手のついた鶏で、何もないのに森に進めない場所があって何人もの人が森から出られなくなっているとか。
「?」
ワケわからんな。
全員もれなく頭の上にハテナを浮かべていると、ギルド長スコットが笑う。
「意味がわからないですよね、だから調査なのに高ランク指定をしているんです。現にいくつかのパーティーが戻ってきてません。この依頼も運良く戻って来れたハンターがくれた情報なんです。この森は資源が豊かなので、できるだけ早く取り戻したいのです」
なるほど。
「わかりました、引き受けましょう」
依頼の情報の写しをしてもらいながらオレ達は何となくこの魔物は裂目関係の奴ではないかと推測していた。山之都には裂目がある、そこから山を降りてきて悪さをしていてもなんも不思議ではなかった。
「それではよろしくお願いします」
ホッと胸を撫で下ろすギルド長スコット。
それを見てオレはそう言えばと、あることを話すことにした。
「あの、スコットさん。ちょっとこちらからもお願いがあるのですがーーー」
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