第220話 休養中.4

クユーシーが持ってきたのはエメラルドグリーンの小さな石だった。大きさは一般的な飴玉ほど。


「何ですか?これ」


「これは風の精霊フーシア達が遊びで作ったものらしくて、簡単に言うなら空気の結晶みたいな物です」


「空気の結晶!?」


異世界の摩訶不思議物質を見慣れてきてそれほど驚くことは減ってたけど、さすがに驚いた。空気の結晶ってなんだよ。気体が結晶化って出来るのか?


向こうで探せば、もしかしたらあったのかも知れないが、あいにく科学とかの成績があまり良くなかったのでオレは知らない。


「へぇー、なんだかエアマドイトみたいさ」


「そうです、それよりも含んでる空気は多いです」


「エアマドイトって?」


「凄い珍しい石なんだけど、川底とか湖の底から気泡が上がってくる時があるだろ?それはそのエアマドイトが石の中に残ってる空気を吐き出してるからなんさ」


「へぇ」


全く気にしてなかった。

今度は水辺も注意して観察してみよう。


クユーシーに説明を受け、言われた通りに石を口に含んで口から呼吸をしてみると、確かに呼吸が出来た。だけど、なんと言うか少し違和感はある。ストローで呼吸してるみたいだ。


「水中での会話はハズデ手語でやるから。覚えてる?」


「………(すこーし)」


怪しげにハズデ手語で返答。


「忘れてるところあったら、カナ手語で大丈夫だからな」


カナ手語は、ハズデ手語が決まった単語を現すものだとしたら、その中の名前などの音、仮名を現すものである。


それなら安心だ。


了解と返すと、アウソは槍を手に水の中へと入っていき、オレもその後に付いて入っていった。




粘りけのある所は表層だけだったようで、中に入ってしまえばただただ黒く濁った水だった。視界は良くない。最大透明度が5メートル程か。アウソが速度を調整してくれているけど、気を付けないと見失う。


(しかし、なんで少しの動きであんなに速度が出るのか)


フィンも付けていないのに、一蹴りでだいぶ進む。こちらも足を鍛えたから、まだギリギリ付いていけるけどね。


こまめに耳抜きをしながら潜っていくと、先を行くアウソが何かに気付いたらしく手をヒラヒラ振っている。


「(底の方、横に穴があいている。空気はまだ大丈夫か?)」


「(まだいける)」


本当にヤバイときはネコが知らせてくれる手筈になっている。最大20分近く持つらしいから、ネコにタイマーを起動させたスマホを見てもらい、残り10分と5分の時に報告をしてもらう事になっている。


アウソが穴の近くの石を拾い、中に投げ込み、安全を確認すると入っていく。


中は更に暗く、水が重い。

そして、底の方に黒いヘドロのような物が大量にへばりついている。


なんか、見覚えがあるな。

どこでだっけ?


パキンと音が聞こえてアウソの方を向くと、驚いた。


奥の方で、ヘドロのような物が壁から大量に滲み出ていたのだ。

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