第213話 エルトゥフの森での攻防.20
死んだと思った。
だってそうだろう。空一面マグマの海で、それが一気に降ってきたんだから。
だが、不思議なことに熱くはなかった。
目を開けると、マグマの海は途中で何かに阻まれ落下を止めていた。
そして何故かとても寒かった。
「風が…」
風が上空で竜巻のような渦を作り出し、マグマを巻き込んで巻き上げていた。
風に混じって蛍ような光が大量に飛び交っているのを見るや、精霊達がこの風を発生させて防いでくれているらしい。
なんとも頼もしい。
おまけにその風は冷気を含んでいて、熱せられた空間を冷ましてくれている。
『ちっ、あの小さいの邪魔だな』
リューシュが掌を空へと向けた。
精霊に何かをする気か!?
すぐ側で、熱気を感じた。
攻撃かと身構えたのだが、そうではなかった。
カリアから熱が放たれていた。
溢れんばかりの魔力がカリアの体を包み、それは先程よりも強く、濃く、増大していた。そして何よりも気になったのが瞳の色が変わっていた。紫色の瞳が、赤みを帯はじめている。
「ハベーラ
カリアの足が一際強く地面を踏み締める。
その瞬間カリアから凄まじい圧が放たれ、それによって空気が激しく振動し、耳鳴りがしはじめた。
「…
爆発音と共にカリアの姿が掻き消えた。
『うわっ!』
その衝撃で隠れていたネコが弾き出される。
次の瞬間カリアはリューシュのすぐ目の前に現れ、掌底突きの構えから、溜めた力を解放した。
『
まるで大砲か何かに掌突されたような衝撃音を放ちながら、リューシュがぶっ飛んでいく。リューシュは決して防御をしなかったわけではなかった、もちろん辺りのマグマを壁のように競り上げ、余裕の笑みを浮かべていた。
しかし、それをカリアはマグマの壁ごとぶっ飛ばしたのだ。
リューシュは後ろの木々を巻き込みながら飛んでいく。止まる様子はなく、遥か遠くでようやく音が止んだ。
「…………」
何その技。
カリアから魔力が霧散していく。そこでようやくカリアの足がマグマに突っ込んでいるのに気が付いた。
「ネコ!救出!救出!」
ネコが慌ててカリアの胴を尻尾で巻いて救出した。
カリアの足は案の定マグマに焼かれて火傷をしていた。
いや、マグマに足突っ込んで火傷で済んでるのもどうかと思うが。
「師匠!!」
リューシュが飛ばされ、コントロール不能になっていた火の玉をキリコが好機と全て消し去ってからやって来た。
「なんで無理したのよ!!」
キリコが激怒してる。
あれってそれほど怒る“無理してる”レベルの技なのか。
確かに秘技とか言ってたけど。
「…いや、ごめんなんかあいつ凄いムカついて」
カリアが珍しく言い訳してる。
よく見てみると、カリアの足が少し震えているように見える。火傷のせいなのかは分からないが。
『ライハ、地面揺れてる…』
ネコが下を向きながら言う。
『うぉおおおおおおおおお!!!!!』
「!!?」
リューシュの叫び声。そして同時に笑い声が聞こえてきた。
『これは愉快!!これは愉快だ!!!人間の癖にここまで楽しませてくれるとは!!!気に入ったぞ!!!』
遠くから、七本の赤い大きな蛇の頭が起き上がり、こちらを向いた。七本の頭の根元は一つで、胴は七本の首を支えられる程の巨大な蛇だが、人に似た腕を持っている。
しかし、その蛇の口からは血がだらだらと流れていた。
どうやら先程のカリアの秘技が効いているらしい。
『ここで死なすには惜しい、俺と来い!!共に心行くまで楽しもうではないか!!』
突然のナンパ。
カリアを見ると何言ってんだこいつの顔。
キリコもしかり。
ついでにオレも。
『他の者らはいらん。邪魔だからな、今ここで纏めて消し去ってやろう。次は手加減は無しだ』
そう言うや、カリアに手を伸ばし始め、七本の頭の口から閃光が迸り始める。マグマなんて奴にとってはぬるま湯だったらしい。恐らくあれはビームか何かだろう。
「………」
上空で精霊が焦っている。
マグマは吹き飛ばせるがビームは無理ってところか。
「ネコ、なんか良い手ある?」
『…ごめんネコ馬鹿だから頭真っ白』
「キリコさんは?」
「アタシでもあれは無理」
「ですよねー」
唯一の手はもうカリアを盾に逃げるかと思った所で、地面の揺れが大きくなっているのに気が付いた。
奴は動いていない。なんだ?地震か?
いや、この揺れ方は足音だ。
リューシュの巨大な手が視界を覆う寸前、空から壁が降ってきてリューシュの手を阻んだ。
土埃が舞う。
何が起きた?
「皆無事かーー!!!?」
アウソの声。
振り替えると、ゴーレムの肩にアウソとクユーシー、そして武器を持ったエルトゥフの方達がいた。
そして、アウソとクユーシーの後ろから怒っているのか頬を膨らませたウンディーネが現れた。
無事だったのか!
「遅くなってごめん!!でも、もう大丈夫だ!!」
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