第170話 予想外

オレ達はカリアの指示に従い華宝国を北上していた。


あの後、カリアの興奮具合が凄かったから訳を聞いてみたら、カリアは第二次人魔大戦後に立ち上げられたとある組織の一員なのだそうだ。


組織の名前は『スキャバード』。

初代勇者を『始まりの剣』二代目を『双剣』と呼び称える彼らは、全て過去勇者に関係ある人物やその子孫、または弟子であり、意思を継ぐ者としてスキャバードを名乗っている。


カリアはなんと二代目勇者の相棒として名を馳せたマオ・トルゴの弟子で、ザラキも弟子だったらしい。

道理で異常に強いと…。


スキャバードの主な活動内容は、各地で現れる異常に強い魔物マヌムンの駆除作業、見付けた世界の亀裂を塞ぎ、悪魔と取引していると噂の鷲の爪を監視、時によってはきちんと法に則り壊滅させているのだとか。


そして消えた二代目勇者の行方を追うことも目的の一つ。


カリアは組織内にいくつもある部隊、表舞台で活動しながら情報を集めつつ魔物マヌムンを減らしていく遊撃部隊の幹部らしい。


本人いわく柄じゃないと何度も断ったが、気付けば勝手に幹部にされてたらしいので、そっちが勝手にするならこっちも勝手にするわと縛られる事なく自由に動いている。


今回はオレのこの情報で更に動きやすくなると思ったカリアは、イリオナにある本部に紹介がてら連れていき、情報を整理して補佐をするという感じ。


ちなみに『遣い』の人達とは別組織。

あの人達は神からの直属の部下らしく、過去に壊滅させた魔王軍の残党がどうもこの世界でそこそこ動き回り何かをしようとしているので、調査しながら怪しい魔方陣を片っ端から破壊しているらしい。


世界の亀裂については既に別組織がなんでか知らんが対処してくれているので、安心してそいつらに任せている。


世界の亀裂周辺には高危険ランクの魔物マヌムンが生まれやすい、魔術師系が多い遣いには幾分不利なので助かっている面がある。


スキャバードはほぼ物理的戦闘能力特化型ばかりだそうだからな。魔物マヌムンは任せろ状態。



お互いの存在を知らないのに連携プレイとか、凄い。


そんな感じでバランスを取りながら頑張ってますって所に三代目に任命されたオレを突っ込むことによって遣いとスキャバードの架け橋が生まれれば、さらに連携がスムーズになり第三次人魔大戦を遅らせる事ができたら良いなと、淡い期待を抱いていた所、予想外の事件が発生した。







「ライハ避けろ!!!」


「!!」


焦ったようなカリアの声。

突如体の右側にぞわりとした感覚が走り、殆ど条件反射で身を反らした瞬間、体と灰馬の間を赤く光る矢が通過した。


地面に突き刺さった矢が爆弾のように爆発し、灰馬が驚いて嘶き、その音にネコも驚いて、馬に付けられた猫用の荷袋から飛び出して頭にしがみついてきた。

その前方でキリコが既に矢が飛んできた方向へボウガンを向け発射し終え、カリアが馬を飛ばし矢が飛んできた方向へと消えていったのが見えた。


「落ち着け!落ち着け!」


ドウドウと灰馬とネコの首を擦りながら宥めているとアウソが「大丈夫か!?」とやって来た。


「ちっ、一人は仕留め損ねたわ」


「なんで、矢が…。しかも爆発の札付き。完全に殺す気だよな」


『びびびびビックリしたぁ~!!!』


未だに心臓をバクバクとさせながら頭にしがみついているネコを引き剥がしながらカリアの消えた森へと目を向ける。


粒子モードにすると、カリアが何かを引き摺って戻ってくる途中だった。


姿が見えたところで、何を引き摺っているのかが判明した。

分かってはいたけど、ボウガンの矢が脚に突き刺さった男だった。フードを深く被り、できるだけ身を隠すその姿はまるで盗賊や暗殺者だ。


しかもその男は、矢は脚に刺さっているのに既に死んでいた。


「一人には逃げられた。こいつは逃げられないと察して舌を噛み切って死んでたよ」


「…うわぁ」


見慣れたとはいえ、やはり人の死体は嫌なものだ。


「なんでライハ狙ったのよ。アタシや師匠ならともかく」


「そーよねぇ。珍しい」


「なんで?」


「鷲の爪に恨まれているから懸賞金掛けられて手配書が裏で出回ってるからちょいちょい狙われているのよ」


「あれは本当に面倒くさい」


「荷物漁ったらなんか分かるんじゃねーか?」


アウソが駿馬から降りて、暗殺者の荷物を漁り始める。

オレも灰馬から降りて手伝っている間、カリアとキリコは周りを警戒してくれていた。


「………おい、こんなん出てきたぞ」


男のポケットから出てきたしわくちゃの紙をアウソが見せてくる。


オレの手配書だった。


「ハァーーーン!?」


なんで!?

手に取りマジマジと見るが、オレだった。

しかも見世物にされていた時の、戦闘中の血塗まみれ写真を拡大したやつで画質は荒いけど、どう見てもオレの姿。


手配書には名前と『生死問わず』の文字。

なんだこれは!?嫌がらせ!?

とんでもねえ嫌がらせだ!!


ワナワナ震えているとキリコが肩をポンと優しく叩いてきた。


「おめでとう、あんたもとうとうこっち側の仲間入りね」


こんなに嬉しくない『おめでとう』は初めてだった。

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