第171話 国を繋ぐ橋

男は近くの森に埋葬して、先を急ぐ。

そして更に4日程駿馬を走らせて、華宝国の北方港町、煙美エンミ港町へと到着した。


「海の上、霧凄いな」


港町を見渡せる丘から、ウォルタリカ方面へ続く海を見ると、海は白い霧に覆われて不思議な景色を作り上げていた。

まるで海のすぐ上に雲海ができ、それが海に代わって波打っている。


「あれは一年中海を覆う霧よ。なんでずっと出てるのか知らんけど、夕方になると真っ赤に染まり、冬になれば日の光を反射して虹色に変化して凄く綺麗なんよ」


「なんとまぁ」


それは是非見てみたいものだ。


駿馬を歩かせて船を探すのかと思っていたら、港とは別方向へ向かっていく。


「? 今回は船に乗らないんですか?」


オレに疑問にアウソが答えた。


「今回は船に乗らん。この辺りは風がないばーて。彼処にあるのはみんなコーワの間の海で漁をしに行く奴等なんさ」


「じゃあどうやってウォルタリカへ行くん?」


「橋を渡るんだ」


白い霧の中から徐々にその姿が現れた。

海の中から大木が規則正しく並んで生えたように見える柱の間に道が通され、橋となっていた。


柱の上部は荒々しく枝分かれしているデザインなので、まるで本物の樹のようだ。


「まって、ウォルタリカまでの海の距離って、ルキオの港から華宝の港程の距離があったはずだけど、その海峡全部にこの橋が架かっているってこと!?前長何キロだよ!!」


「凄いよな。昔コーワの有名な物作りの人が、この街の霧を見てこの橋を架けたいと思って、コーワ、華宝、ウォルタリカの三国を根性で巻き込んで完成させたんだ。うり、そこに『三国記念栄光大橋』って書いてあるだろ!」


「マジだ。スゲーなコーワ人」


コーワ国は物作りで有名な国で、小さい細工品からこんな国を巻き込む巨大な物、刃物、建築、彫刻、革命的な便利用具まで数広く作っている。


時にはなんでこんなの作った!?と、変人扱いされる時もあるそうだが、基本一般人は人畜無害で対立も少ない。サムライと呼ばれる人達は別。あの人達は国を守ることにいつも全力らしい。


「そういえば、なんかやけにカリアさん静かじゃね?」


静かに霧を見詰めるカリアは、いつもよりも真剣で何かを思い出しているようだった。


キリコがこちらに近付く。


「なんか師匠、この橋を渡る直前いつもあんなになるのよ。渡り始めたらいつもの師匠に戻るわ」


そう言うとキリコはまたカリアの近くに戻っていった。


そういえば、神から貰った情報とか以外でカリアからウォルタリカの話をして貰ったことは殆どない。


水が豊富な北の巨人の国の一つ。

それだけだ。


夕日によって赤色に徐々に染まりつつある霧が、橋のデザインによってまるで桜並木のように変わっていく景色を眺めつつ、ウォルタリカに着くのが少し楽しみであった。

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