第156話 ハンター試験.7

会場が復活するまで約一刻は掛かるというので会場の避難場所的なところで休憩をとることにした。


会場は大工らしき人達が針を片付け、魔術師的な人が壁や床に魔方陣を描いている。

なんか、荒らしてすみません。


「気にすることはありませんよ!よくあることです!」


と、試験官は言う。

よくあることなのか。



桃の形をした饅頭を食べながら、今後の参考になればと壁と床を再生させている魔方陣を観察した。










本当に一刻で会場が綺麗に直った。

そういえば大工達が会場から出る際「いい鉄だ、たくさん作れる」とかなんかいってたけど、何を作る気なんだろう。


「大変お待たせいたしました!それでは次はC

+試験を開始させていただきます。ここから危険度が鰻登りになりますので、降参宣言はお早めにお願い致します」









次の魔物マヌムンと対面したとき、ゾワリと背中に鳥肌が立った。

これは何度か体験がある。

毒を持った生物と対峙したときに起こるものだ。だけど、それが今回はとても強い。猛毒を持っている可能性がある。


体躯はライオンだが、目元から耳にかけて黒いクマのようなもの。体にも所々狸のような模様があった。だが、その立派な鬣はライオンそのものだし、尻尾がまるで蛇のように動いているのが気になる。


「!」


キラリと尾の先に光るものが見えた。

もしやそこに毒針があるのか。


気を付けないと。


双方警戒体制でのにらみ合いから始まった。

ザワザワとうなじが粟立つ。


『ルルル…』


「………」


相手の目を見据えながら、ゆっくり息を吐いていく。

辺りの景色がボヤけ、相手の動きが鮮明に感じ取れる。瞬き、呼吸、尾の動き、そしてやろうとしている次の動作。


オレはこの感覚を知っている。


本気の命のやり取り。


見世物の殺し合いより前の、獣となり、森の主と退治した時の感じ。


(気を付けろ、今回オレは大きな体も、鋭い爪も、牙も尾もない。あの時と似ているが違う。武器は手にある短剣と魔法のみ…)


ゆっくりと歩きつつ隙を伺う。


「!」


次の瞬間、ライオンの周りに風が吹き荒れ、姿が消えた。


「くっ!!?」


体が勝手に動いた、振り向き様に短剣で凪ぎ払うと、ライオンの尾の先にある巨大な針とぶつかり軌道を逸らした。


針の先端から飛び散る液体は毒だろう。


急いで後ろに飛んで距離を取った。

何だ今のは。消えた。


「また!」


ライオンが風が吹き荒れると同時に消え、オレは急いでその場から飛び退いた。

頭上から降り下ろされた爪が地面を抉りとる。


目を変え、ライオンの姿を見てみると物凄い量の魔力の靄が掛かっていた。これは、ガンガン魔法を使ってくるな。

魔法はなんだ?風かと思ったが、突然姿が消える。


まるでウコヨ達のようだ。


「…移動魔法か」


まさか魔物が移動魔法を使えるとは思わなかったが、今まで二度も瞬間移動をしてきたからにはそれで間違いないだろう。


『グルルルル…』


ライオンが眉間にシワを寄せながら牙を剥き出した。


来る。


風が吹き荒れ、ライオンの姿がぶれる。しかし、オレの魔力を見る目は、とある現象をしっかりと確認できていた。

姿がぶれる前、ライオンの周りにある魔力の一部がオレのすぐ近くに、一本の線のようにして伸びていた。


『グルルルア!!!』


ライオンがその位置から姿を現して襲い掛かってきた。

しかし、事前に現れる場所に目星をつけていたオレは、すでに迎撃体制を整えていた。

襲い掛かってくる牙を回避し、爪を受け流し、ライオンの横面に短剣の刃を滑らせた。


刃が掠めた感触。


ライオンが少し後ろに移動し、刃が掠めた頬を舐める。血が滲み出ている事に気が付き、ライオンの目が変わる。


今まではただの獲物として見ていたが、必ず殺さなくてはならない敵として、オレを見た。

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