第157話 ハンター試験.8
ライオンがペロリと頬の傷を舐め、尻尾が揺らめく。
魔力がライオンの周りに集まると、見えない“何か”が高速で飛んできた。
「!!?」
すぐさま粒子の目に切り返え、その正体を見た。
風の刃だ。
それがいくつも飛んでくる。
急いでそれを避ける。
あらゆる角度で飛んでくるのを必死で避けるが、さすがに今回は速度が速度なだけに避けきれず、左腕に刃が掠めて血が飛び散った。
大丈夫だ、傷は深くない。
問題なく動く。
仕返しとばかりに雷の矢を入れば、ライオンはそれを弾き飛ばしてはならないと直感したらしく、横へと跳んで避けた。
「?」
なんだ?
なんで今魔法を使わなかったんだ?
ライオンが風を巻き起こし、すぐさま現れる場所を確認すると、そこから飛び退く。
が、そこから飛び出したのはライオンでは無かった。
「ぐあっ!!」
体のあちこちから血が飛び散る。
まさか風の刃が飛び出てくるとは。
咄嗟に頭や首を庇ったが、その代償として腕を深く切ってしまった。
しかし攻撃はそれで終わりではなかった。
風の刃が去ったあと、すぐさまライオンが横から飛び出して来たのだ。ライオンと共に尻尾も一つの生物のように向かってきている。
尾は猛毒。
牙も咬まれれば終わる。
「ヒュッ」
両手を地面に着き、素早くしゃがみ込むと、真上を通過するライオンの顎下に狙いを定めた。
脚に魔力を集め、纏威を発動させて蹴り抜いた。
加減している余裕はない。
瞬間的に集められるだけの魔力を氣で巻き込んで発動させた纏威を受けてライオンが仰向けに軽く飛んだ。
これで脳震盪でも起こしてくれと願ったが、ライオンは頑丈だった。すぐさま風と共に移動魔法を発動させると、オレから大分離れたところに現れた。
「…あぶなかった…」
下手したら爪牙毒の三コンボを達成するところだった。
「!」
足元に何かが落ちている。
見てみると、牙だった。
(ハハッ、さっきの蹴りで折れたか)
深く切った左前腕の様子を見て動かしてみたが、一応まだ問題なく動いた。
痛みは熱と同化していてよくわからない。
『グルルルル、グウォアアアアッ!!!』
ライオンが大きく吼えると、周囲の空気がビリビリと震えだし、ライオンの周りから徐々に旋風のようなものが発生し、最終的に会場全体か荒れ狂う暴風の渦に取り込まれた。
すごい風だった。
まるで沖縄で遭遇した台風の暴風域の中にいるみたいだ。
しっかりと地面を踏み締めていないと簡単に吹き飛ばされそうになり、まずそれ以前に立っているのがやっとだったが、目すらも強風のせいでまともに開けていられない。
しかも何故だが呼吸がしにくい。
これも強風のせいか、
「!」
予備動作もなくライオンが消えた。
次の瞬間目の前に現れ鋭い爪が肉を抉り取ろうと迫っていた。
咄嗟に纏威を発動し、ライオンの迫り来る左前肢を殴り付けた。
爪の一つが頬を掠める。
視界の端に尾の針がこちらに向かっているのを察知し、オレは大きく後ろに跳んだ。途端体は風の壁にぶつかり、予想以上に飛ばされた。
転がりながらも雷の矢を射ると、雷の矢は風の影響を全く受けずに真っ直ぐに飛び、ライオンの頭近くの鬣を軽く削ったのみ。
でも、ライオンはその雷の矢に怯むことなく、次々に転移してオレを逃げられないように少しずつ壁際へと追い詰めようとしている。
壁際ではオレに勝ち目はない。
かといって転移先は強風が邪魔で目で追いきれない。
だが、大人しく負けてやるのも癪に触る。
ならば、せめてこのライオンを驚かせる何かをしてやろう。
「……風?」
ふと、何故かルキオで何度も見た風を上手く利用して加速をする鳥達の姿を思い出した。
鳥達は追い風ならば羽を精一杯広げて加速し、方向転換する際には羽の角度を調整したり、羽を閉じて減速を掛ける。
風に歯向かっている鳥はいない。
全ての鳥が風の流れに乗って国中を高速で動き回っていた。
会場を見渡せば、ルキオの上空とほぼ同じ状況。
階層によって風の向きが違う訳ではないが、定期的に風の向きが変わる。
そして、オレには風を見る目がある。
自然に笑みが浮かんだ。
「利用できるものは、利用させてもらおう」
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