第155話 ハンター試験.6
「ハァッ!ハァッ!くそ!相性が悪い!」
針の森と化した会場を駆け回りながらオレは天縞馬を観察していた。天縞馬の確認した攻撃方法は、まず角から発射されるショット弾とこの針の大砲だ。
機動力も高い。
隙を見つつ矢を射ちまくったが、ヒョイヒョイと軽く避けられた。
何よりずっと飛んでいるのが狡い。
正直降りてこいと叫びたい気分だ。
『ヒヒヒヒン』
「どうにかしないとな…」
針に触れる。
その時、初めて針の表面が滑らかなのに気が付いた。
掌から伝わるヒンヤリとした感触は、あちらでよく触れていた物と似ていた。
天縞馬に警戒しつつ針に目をやり、オレは針に触れていた指先の臭いを嗅いだ。
独特な臭い。
懐かしいその手触りにオレは一つの可能性に賭けて、その針に向かって微弱な電流を流した。
何の抵抗もなく通電する針に、オレは笑みが溢れた。
針は鉄で出来ていた。
これなら、活用できる。
作戦を実行するためには数をもっと増やした方がいい。
オレはわざと針の森から、何も突き刺さっていない地面へと走り出した。
「ブルルルル!バフッ!!」
天縞馬が容赦なくショット弾と針を撃ってきた。それを飛んで跳ねて回転しての技を駆使して回避し、あえてたくさん撃たせるために挑発しながら走り回った。
なかなか当たらないオレに対して天縞馬は苛ついてきているのか攻撃が荒くなってきていた。
だが、オレはギリギリまで粘りに粘って天縞馬に針を撃たせ続けた。
息がだいぶ上がっている。
流石に長い間避け続けるのは大変だった。だけど、これで勝つための環境が揃った。
天縞馬は空中からオレを探して旋回していた。
今や会場はお前の針のおかげで針山状態になっていて、隠れることは容易い。
しかし、まさか試験官も狙われるとは思わなかったな。
天縞馬と同じ空中で浮遊中の試験官に向かってショット弾を放っていたのは驚きだ。
もっともそのショット弾は当たる前に何かの魔法で上に全部方向転換して飛んでいったけどね。
「さーてと、今までのお返しをしてやるぜ。覚悟しろよ」
すぐさま串刺しにしてやろうと思ったのたが、この獲物はなかなか素早く、ついでに攻撃も仕掛けてきた。
天縞馬はそれでもいつかは獲物が疲れきって動けなくなったときに刺されば良いと、半分遊びで撃ちまくっていた。
だけど、広場の半分を針が多い尽くしてもなかなか獲物は疲れてくれなかった。むしろこちらが疲労を感じ始めていて、天縞馬は少しばかりイライラし始めていた。
それなのに獲物はこちらを挑発するように定期的に攻撃をしてくる。
天縞馬は早く仕留めようとがむしゃらに撃ちまくった。
撃って撃って撃って、ふと気が付くと広場は針の森が出来上がっており、獲物の姿も針の森に隠れていなくなっていた。
天縞馬は焦った。これでは何処にいるのか分からない。
そこまで目がよくないが、それでも獲物を探して旋回していたら、突然足元から獲物の攻撃が飛んできた。天縞馬はすんでで回避し、攻撃が来た方向へと向かった。
しかし、そこには何もなく、次の瞬間全く別の方向から攻撃が。
『!?』
いつの間にそこにと、天縞馬は飛んで行くと、今度はまた違う方向から。そして段々と攻撃の感覚が短くなって来ていることに気が付いて天縞馬は焦り始めた。
逃げよう。
天井に見える空へと向かって天縞馬は飛び上がったが、次の瞬間、天縞馬の体は激しい衝撃と光に包まれた。
オレは走りながらあちこちの針に雷の矢を射った。
針は鉄製で、とある角度で雷の矢を当てると、針の中で雷の矢の軌道が変わり、上を向いている針の先から矢が飛んでいった。
矢の方向は天縞馬だ。
案の定天縞馬は高速で移動する獲物の攻撃に混乱しているようで、動きが鈍くなっていた。
普段自分が狙撃する方だから、自分が狙撃されたこと無いんだろうな。
オレはどんどん針に矢を射っていき、天縞馬を一ヶ所に追い詰めていった。
追い詰めた場所は会場の真ん中だ。
そこから見えた空に天縞馬は逃げようと高度を上げた。
「残念ながら逃げられませんよっと」
オレは一気に魔力を集めると、集めた魔力を全て雷に変換して両手を地面に叩き付けた。
そこから電気の波が広がり、波の延長線上の針の中を伝わって、全ての針の先から雷の矢が飛び出していった。
一瞬、空中が白い光が満たされ、次の瞬間鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの爆音に包まれた。
空から天縞馬が落ちてきた。
羽は折れ、口から煙を吐いている。
急いで様子を見に行くと天縞馬は動かなくなっていた。
勝った。
「C-試験合格です。次の試験に挑戦しますか?」
「挑戦します!」
「わかりました。しかし会場を修復するのに時間が掛かりますのでここで一旦休憩とさせていただきます」
「あ、はい」
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