第60話 怠け馬

ひとまず捕まえた賊達は倉庫に監禁し、それぞれ手当てをすることに。といってもオレの場合は魔力欠乏(まりょくけつぼう)なだけなので魔宝石を持っていれば特に問題ないとのことだった。


「はい、次!」


そして現在、黙々と隷属の拘束具を破壊中。

触れるだけで勝手に外れるので途中から段々楽しくなってきて、一列に並ばせて、せいっ!せいっ!と首輪と腕輪をリズム良く触るゲームと化してきている。


「これで、終ッ了!!」


最後の人の拘束具を外し、熱烈なお礼とハグをしてきた村人は踊るように家族の元へと駆けていった。

腕を擦りつつ魔宝石を取り出して一旦休憩。今度は冷え性の様にはならなかったがやっぱり反転の呪いはやる度に魔力を持っていくらしい。疲れたなと壁にもたれ掛かっているとアウソが食べ物を手にやって来た。


「おつかれー、果実水飲むか?」


「飲む飲む、グルァシアス」



現在、それぞれの情報を共有するためと報酬を手渡すために村長の家に集まっている。


あの洞窟は見事に倒壊し、シラギクの結界とやらで持たせていたトンネルも結界解除した瞬間に潰れてしまった。


中に突入し混乱を引き起こしつつアジトを漁り回ったハンター達の話によると、アジトと言っているわりには活用している部屋が少なく、盗んだ物を保管しているような所が見当たらなかったことから、他にも同じような洞窟があるんじゃないか。そう思いハンター護衛で土地勘のある若者達を放ってみると周辺に上手くカモフラージュされた洞窟がゴロゴロ出てきた。


「なんと、洞窟の近くに窃盗したのか分からんが大量の駿馬やらその為もろもろがおってな、しかもあの朱麗馬(スレイバ)が数頭いたんや!」


そう話し掛けてきたのは村の若い連中の一人だった。腕を三角巾で吊っているところを見ると、こいつが逃げる途中で骨折した奴だろう。

幸いにもその保管用の洞窟に見張りは居ないようで、興奮状態で戻ってきた。


「すれいば?」


「モントゴーラっていう国にいる恐ろしく早い駿馬でな、赤毛でなんかモサモサしてる」


「モサモサ」


毛がモサモサって事だろうか。


それを聞いた村長は余程嬉しかったのか涙を滝のように流し始め、それを近くにいたリーオさんに慰められていた。どうやらその朱麗馬は三日の道のりを一晩で駆け抜ける事が可能とのことで、しかも一度駆け出すとなかなか止まることが出来ないというか、ブレーキの効きが悪いというか、途中大きな音を出されれば普通の駿馬なら驚いて止まってしまう場合でも、朱麗馬ならば構わず突き進むので賊などに襲われにくいという。


「三頭程で列を組んで行けばユラユにはすぐだな。運が良ければギルドに頼んで自警団を出してくれるかもしれん」


「誰がいく?朱麗馬の暴走加減は酷いからな、出来るだけそれ系のに慣れてるのが良い」


「俺達のパーティーに厄介のに乗りなれてるのが俺ともう一人いる、ちょうど怪我人もいるから暇潰しに好都合だぜ」


そう手を挙げたのはノルベルトだった。

隣に座る長い癖のある髪を纏めてる青年も頷いている。


「では頼もう。報酬は…」


「報酬はその二頭の朱麗馬をお願いできますか?」


黒髪の小柄な青年がノルベルトと青年の間から顔を出してきた。

青年…というよりもまだ少年が抜けきっていないようにも見える。隣にニックがぶすっとした顔して座っているのが見えるので彼のパーティーメンバーだろうか。


「でも貰ったところでどーすんだ?朱麗馬二頭じゃ色々釣り合わんだろ」


「何か考えがあるんだろ、俺は良いぜ」


「ニコ……ニックさんは?それで良いですか?」


「シラギクが言うんなら賛成だ。村長、どうでしょう」


あの人がシラギクっていうのか。

魔宝石をカイロの様に両手で揉みながら話を聞いていると隣のアウソが朱麗馬良いなーと言っていた。


「そんなに良いの?」


「一度は憧れるもんだばーて、ライハも馬に乗り馴れれば分かる」


「そうか、分かった」


ちなみにオレはまだ馬にすら乗れないので分からないが、楽しみにしておこう。


「朱麗馬二頭ならば良い。でも本当にそれで良いんか?金とかは?」


「いえ、後々の事を考えればそれで十分です」


その後、次々に今回参加したパーティーに報酬の交渉が始まり、オレらのパーティーの報酬は金を蹴って無料で駿馬四頭をゲット。


元々駿馬を買いに来たのでちょうど良かった。


集会後、流れるように村人達が持ってきたお酒でどんちゃん騒ぎとなり、途中で逃げ出したオレは村長から宛がわれた宿で休んでいた。元々疲れていたし、魔力が少ないからだろう、あっという間に眠りに落ちていた。







朝、最近朝早くから移動する事が多かったのでやらなかったのだが、久しぶりに筋トレを宿の裏でしていると、ぐったりしているアウソの襟首をカリアさんが引き摺りながらやって来た。


「おっはよう」


「おはようございます、アウソ大丈夫ですか?」


「ただの二日酔い、さっき大量に水飲ましたからそのうち復活するよ」


二日酔いって水飲ましたから治るものだったっけと疑問に思いながらカリアの後をついていく。着いたのは村の広場で、そこには大量の馬らしきものがいた。


「馬?」


普通の馬に牙が生えている。

肉食なのか。


「うま?違う違う、駿馬よ。で、あれが朱麗馬」


ついで指差された先にいたのは鬣(たてがみ)と尾と足先がビックリするくらい長い毛が生えた赤毛の馬。しかしこちらには毛の無い箇所に鱗(ウロコ)が生えている。


「馬に鱗(ウロコ)が…」


オレの中にあった馬がゲシュタルト崩壊しながらも近付いて行くと何頭かがこちらに気付いてこっちを伺うように草を食みながら見詰めてきた。ああ、良かった。牙が生えているけどちゃんと馬だ。


ほっこりとしているとバタバタと慌ただしい音が近付いてくる。それと同時に聞き覚えの声が聞こえてきた。


「このやろー!寝坊しやがって!朝は任せろって言ったのお前じゃねーか!!」


「仕方ねーだろ!!俺だって疲れてたんだよ!!」


ノルベルトさんと隣に座ってた青年だ。


「お!ライハおはよう!昨日はおつかれ!!」


「ノルベルトさんもお疲れさまでした!」


すれ違い様に軽く挨拶されてそのまま駆け抜けていく。もう一人の青年もこちらを見て何かいったが、何語なのか聞き取れなかった。


「急げガルネット!!」


「急いでるわ!!」


そしてあっという間に姿が見えなくなった。

忙しないな。


「忙しないわねー」


と、カリアも二人の去っていった方向見ながら呟いた。


「さて、他の連中が起きる前に良い駿馬確保しとかないと」


「あれ?そういえば、キリコさんは」


「他のと潰れてるね。アウソは比較的マシだったから連れてきたよ」


「これでマシか」


ウンウン唸るアウソ以上といったらきっと大惨事なのだろう。良かった、昨日は早めに逃げておいて。


アウソを近くの木陰に転がして、カリアと一緒に駿馬の品定めを始めた。


正直駿馬の何処を見れば良いのか分からないが、今後のためにとカリアに色々質問しつつ一頭一頭見ていった。ただ、気になる点が一つ。


「もしかしてオレ駿馬に嫌われてるんですかねー」


良く見ようと近付くと、ある一定の距離を保って駿馬達が移動する。まるで避けているかのように。


「うーん、比較的人に慣れてる種なんだけどねー」


と言いつつカリアは近くの馬の鼻面を撫でている。羨ましい。


「うぇぇ、気持ち悪い…」


そうこうしている内にアウソが復活。近くの駿馬にもたれ掛かり全体重を預けた瞬間駿馬がタイミング良く移動してしまい、支えの無くなったアウソが地面へと転がった。酷いと小さく聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。


「ニィー」


「ん?」


フードの中で大人しく納まっていた猫がのっそりと立ち上がり、地面へと下りる。そして駿馬の足下をスルスルと抜け奥の方へと歩いていった。


「ニャー!」


だいぶ遠くから猫の声が聞こえる。


「ニャアアア!!!」


段々と大きく威圧的になってくるその声にもしかして呼ばれているのかと思い、声のする方向へと行ってみる。

そこには、地べたに横になり猫の声を煩そうに尻尾を揺らす一頭の灰色の馬がいた。


他の馬は朱麗馬も含めキチンと立っているのに、こいつは極限までだらけている。声に反応するのもめんどくさそうになってきたのか段々と猫の声で揺らしていた尻尾すら動きが鈍くなってきた。


(なんだこの怠け馬)


「ニャ」


猫が戻ってきてズボンをカリカリ。乗せろという合図なので猫の足裏を軽く叩(はた)いてフードの中に収めると、頭を肩に乗せてきた。


「ん?」


なんか視線を感じると思ったら、怠け馬が首だけ起こしてこちらをジト目で見ていた。


なに見てんだよ言いたげに。

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