第59話 嵐過ぎ去り

フラフラのニックをノルベルトとサズが交互に支えながら来た道を戻ると、壁のヒビが増えていた。

ミシミシとした音が鳴り響き、天井から壁の一部が剥がれて落ちてくるのを見て、体が拒否反応を起こし始めたのか足が鉛のように重くなった。


「………、オレこっから先に行きたくない。崩れそう」


「俺もちょっと嫌だな」


「だが行かねーとどっちにしても生き埋めだぜ?」


「運に任せるしかないな」


行きたくないけども、行かなくても生き埋めならまだ行った方がマシだろうか。


走れるかの確認のために軽くジャンプしていたらニックがポケットから袋を取り出していた。なんだあれ。

袋から出てきたのは何かの種だった。それを先ほど回収した魔宝石にくっ付けるとブツブツ何か唱えながら水筒の水をかける。


「!?」


途端、種から根っこが伸び魔宝石に絡み付き始めた。


「ちょっとだけ持たせるから、合図したら走れよ」


それを大きく振りかぶってニックが投げる。


魔宝石は弧を描き、地面に転がった。

衝撃のせいなのか、魔宝石から光の靄が溢れるとそれを追い掛けて種から緑の蔓が大量に伸び地面や壁に広がっていく。


ほんの数瞬で目の前に某ジブリの茂みのトンネルのようなものが現れ、壁や天井を緑が覆いつくしたお陰か変な音が聞こえなくなっていた。


「やべえ、ニックさん惚れるわ」


「さすがクラウス。もう俺一生お前についていく」


「やっぱ魔術師必要だな。絶対交渉して入れてもらおう」


すぐ近くの蔓を触ってみると木のように固い。それがヒビの隙間や危険な箇所に蜘蛛の巣状に張り付いて補完してくれていた。


「少ししか持たない、走るぞ!」


合図と共に走り出す。

確かに一旦は木で補強されているが、それでも少しずつ岩の重さに耐えられなくなってきているのがわかった。ミシミシと軋んだ音が階段を上り始めた辺りで酷くなってきている。


そして、最悪な事に体力の限界だったらしいニックが躓いて転んだ。


「あ」


「ヤバい!!早く起きろ!!」


「はっ、くそ、こんな時に」


ニックの様子がおかしい。

足を捻ったのかうまく起き上がれない様子だった。


「!!」


そしてニック所の天井がベリベリと音を立てて、蔓ごと落ちてこようとしていた。


(このままじゃ潰される!!)


肉体強化を施し一か八かの賭けに出た。

目の前で天井の蔓が引き伸ばされて千切れていく、それがスローモーションで再生されるのを見ながら必死に手を伸ばす。


「後もうちょっとおおおお!!!」


ニックの伸ばされた手を掴む、後は戻るだけ。

しかし、視界は既に瓦礫と蔓で一杯になっていた。

間に合わなかった?

死ぬのか?


「走れっ!!!」


そう思い、絶望しそうになった時、ノルベルトが叫んでハッとする。

何故か瓦礫が空中で止まっていた。


何だかよくわからないがチャンスだとニックを担ぎ上げると走り出した。

一歩、二歩、三歩。

やけに遅く感じる時間の中、ひたすら重たい足を動かす。


そして、ようやく瓦礫の下から抜け出した時、プツンと糸が切れたかのような音がしたかと思えば空中で制止していた瓦礫が先ほどまでいた所へ落下した。


「うぇえええ…、やっぱこれキツイぜー…」


「大丈夫か!?見せてみろ!」


吐きそうになっているノルベルト放置でサズがニックの足を調べると、やはり捻挫をしていて、少し腫れていた。これではもう走れない。


「俺が背負おう。ニック程の体格ならギリギリ速度は落ちないはずだ」


「すみません、感謝します…」


「というか、ノルベルトさんは大丈夫なんですか?顔青くなってますけど」


口元を押さえて何かに耐えてる感じ。もしや吐きそうなのか。


「大丈夫じゃないけど、大丈夫だ。まだ。問題なく走れる」


「そ、そうですか。無理はしないでくださいね」


「おお、お前誰かと違って優しいな」


誰かと違っての部分でニックの顔が不良の『ア"ア?』の様に変わるのをノルベルトが華麗にスルー。分かっててやってるのかも知れない。


灯りを灯したニックを背負うサズ、足元がふらつくオレに青ざめたノルベルトが階段を上りきった先に見えたのは瓦礫の壁だった。いや、一部を除いて壁だった。


「………トンネル?」


に見えなくもない穴が蛇行しながら奥へと続いている。偶然そうなったようにも感じるので、奥に行って出られなくなったらどうしようと思う気持ちもあったので入るのを躊躇っているとニックがサズに話し掛けた。


「これ外に続いていると思うか?」


「分からん。一応確かめよう」


サズがトンネルに向かって指笛を吹く。長く、抑揚のない音が消えると向こう側から同じような音が聞こえてきた。もう一度、今度は抑揚をつけたリズムでやると、向こう側からこちらとは違うリズムで返ってきた。


これは、繋がっているってことでいいのか。


サズを見ると明るい表情になっているので間違いなさそうだ。


「向こうももう大丈夫だそうだ、早くいこう」


狭いトンネルを進んでいくとようやく出口らしい光が見えた。自然と歩くのが早くなり、後半ほぼ駆け足になり、そしてようやく外に出た。


目の前に広がるのは壊滅状態の森だった。


「え? あ、そうかドラゴン…」


「みんなは何処だ?」


「おーい!!ライハー!!」


目の前の光景に少し混乱しつつみんなを探していると、聞き慣れた声が聞こえてその方向を見やると、森の向こうから大勢人がやって来たていた。先頭にいるアウソ達を見付けてほっとする。


「ドラゴンは?」


「さんざん暴れてどっか飛んでったよ、村の奴等も逃げるとき骨折した奴いるけど、それ以外は無事さ」


「嵐みたいなもんね」


賊達も縄でグルグルにされつつもこちらも避難済みだった。しかし、戦闘中死亡してたり、倒壊したときに生き埋めになったのもいるから全員捕縛とはいかなかったが。

ハンター達も怪我人は多数いるが、こちらは幸いにも死亡したものはいないらしい。


それぞれのパーティーの確認を終えると、色々な処理の為に一旦村へと戻ることになった。

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