第39話 状況理解不能中

「………ねこ?」


なんで猫。

そう思っていると猫は大きくあくびをし、ついでにグーッと伸びると足の上で丸くなり寝てしまった。


「へー。そいつの名前“ネコ”ってうの。面白い名前ね」


と、紺色の髪を緩く束ねた女性が言った。それに対して明るめな茶髪に緑の瞳を持つ青年が『いやいや』と反論する。


「多分この人の出身での名称がその“ネコ”なんですよ、じゃなかったら名前の後ろについた疑問符はおかしいさ。あ、はい、水」


「え、あ、ありがとうございます」


唐突に青年に渡された水を受けとる。

なんだろ、“ネコ”が通じてないのか?


「もしかしたら似たのが多いから確認しただけかも知れないじゃない」


赤髪で緑の瞳の若い女性がさらにそう反論すると、茶髪の青年がしばし考えた後こちらを見る。


「……………、…そうだば?」


「え?」


紺色の女性と赤髪の女性もこちらを見ている。

いやいやいや。


「……そもそも、オレ、こいつ知らないんですけど」


そう言ってネコを指差す。


「そうなの?でもこの子ずっと一緒にいたわよ。森で見付けたときも、連れだそうとしたら師匠思いっきり引っ掻かれたって…」


赤髪の女性が言い、それに紺色の女性が頷いていた。

ますますハテナが頭上に浮かぶが猫は呑気に寝ているし、女性二人はオレの様子に首を傾けている。



「…もしかしたら、記憶飛んでんじゃないか?名前覚えてる?」


それを見ていた茶髪が訊ねてきた。


「アマツ・ライハです」


「アマツが名前?」


「ライハが名前です」


「名前は覚えているみたいね」


フムと赤髪の女性が組み、会話が途切れたのを見計らって手を挙げた。


「ん?」


「どした?」


「ずっと訊きたかったんですけど、あなた達は誰なんですか?」


あれ?と紺色の女性が声をあげた。


「自己紹介してなかったっけ?」


「してないです」


「そういやしていないわね」


「してんさ」


「そうか、じゃあ」


紺色の女性が腕を組んで胸を張る。

その瞬間大きな胸が組んだ腕の上で揺れた。


「コッチ…、ゴホン!私はカリア、カリア・トルゴ!北の巨人ノ国の一つ、ロッソ・ウォルタリカ出身、種族はジャイアントクォーツだけど一応人間よ!武器は剣とか魔銃とか…、基本なんでも使えるね!」


続いて赤髪の女性が腕を組んで顎を上げる。


「アタシはキリコ・グレイア、本名は更にアギラノ・アシュレイって付くんだけど長いから省略で。出身はアギラだけど、育ったのは別。種族は人間で、遠い先祖に火竜がいたとされるアシュレイ族よ。武器は剣とボウガン。後は種族特性で火に耐性があるわ」


更に続いて茶髪の青年が腕を組み、ニカッと笑顔。


「俺はアウソ・アケーシャ。ルキオ出身のごく普通の人間さ!武器は主に棒とか槍とか銛とか…、基本ボコボコ殴る」


最後の青年まで自己紹介したあと、紺色の女性、カリアがこちらを見た。


「で、えーと、ライハ?だっけ。君も自己紹介するよ」


「……」


これってもしかして、オレも腕を組まなきゃいかんのだろうか。


恥ずかしながらも力の入らない腕をなんとか組む。


「オレはアマツ・ライハと言います。名前がライハです。えーと、生まれは日本の東京で、勇者としてこっちに召喚されました。人間です。不器用ながらも剣を使います。魔法も一応静電気くらいなら…。で、下で寝ている猫は知らん猫です」


「ニホン?召喚って…」


茶髪、もとい、アウソが「あ!」と声を上げた。


「召喚勇者!うわぁ、噂には聞いてたけど初めて見たさ」


「何よ、その召喚勇者って」


「前マテラの商人に聞いたワタラバーですよ、ワタラバー。それをイリの方でイサミビトゥにしてマヌムンと戦わせているっていう」


「ああ!あれか!あれがその“召喚勇者”か!」


「ああー、あれね。何処のフリムンがそんなフラーな事してるのかと思ってたら、本当の事だったか」


「!?」


何かいきなり言葉が通じなくなった。


混乱しているオレをよそに三人はオレの知らない言葉連発の会話で納得したみたいで、すぐ近くにいた赤髪の女性、キリコが哀れみの目をしてオレの肩に手をポンと置いた。


「逃げられて良かったな、お前。運が良かったんだな」


どういうことなの?

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