第40話 国境を越えた迷子(ただし記憶なし)
あの後、結局詳しい説明をもらえないまま三人は知らない言葉も交えて雑談し、のままどっかにいってしまった。
フリーダム過ぎるだろあの人たち。
今は外の小鳥の声をBGMにアウソさんから貰った水をチビチビ飲んでいる。そしてついでに記憶の整理もしている。
「なんか、なんだろうこの状況」
全くこうなった原因が思い出せないのだが。
確かルツァを倒して、帰る途中だった気がするけど…、なんかあったっけ?
どうも後半辺りがぼやっとしていてよく覚えていない。
(もしかして放置していたノーマル・ラオラが団結して襲ってきて逃亡の末に迷子とか?いや、でもスイさんもユイさんもノノハラにシンゴもいたからそれはないだろ。それともなんかルツァよりもやばいヤツが来たとか?)
思い出そうと頑張るが、頑張れば頑張るほど思考が明後日の方に逸れて、ついには脳内にゴジラが出てきたところで考えるのを止めた。
(恐らく、オレが迷子になったんだ。そんな気がする)
そう納得したところでコンコンとドアがノックされた。
「失礼するで」
扉が開き、白い服に大きめな鞄を持ったおっさんが入ってきた。
また知らん人だ。今度は誰だ。
「ライハー、起きてるさ?」
そしてその後ろからアウソが顔を出す。
「アウソさん」
「アウソでいいよ。じゃあ、おっちゃん頼みますわ」
「はいはい」
おっさんが部屋にあった椅子を引き寄せ座ると鞄を探り始める。
「…アウソさん、この人は誰ですか?」
「さん付けいらん。この村のお医者さんさ。あと敬語もいらんし」
お医者さんはいくつかの瓶と包帯を取りだし机に置く。そこでようやくこちらを見る。
「痛みはどうや?」
「大丈夫です、何処も痛くはありません」
「ほうか。ほな消毒だけして包帯新しくしとくか。服脱いで」
そう言って医者が上着を持ち上げるようにパタパタさせたので言われた通りに脱ぐと、何でか知らないけどお腹周りが包帯でぐるぐる巻きにされていた。
あれ?お腹怪我してたっけ?
疑問に思いながらも医者の邪魔にならないように腕を上げ、包帯を解かれるのを見守っていると、脇腹からへその近くまで切り裂かれたような傷が現れた。
その傷は治りかけているものの、縫われた糸や傷周りの赤く盛り上がった肉とか見ていると今まで何ともなかったのにジクジクと痛みを感じてきた。
「………え、なにこれキモい」
「これから消毒するから、超痛かったら言い。堪えられそうなら我慢してや」
「うへぇ、いつ見ても痛そうさぁ。だけど治るのはえーな、もう塞がりかけてんじゃん」
「これ触っちゃあかん」
なんかくすぐったいと思ったら寝ていたはずの猫が傷のあるのとは反対側のお腹に体をグリグリ擦り付けていた。それを医者が鷲掴んでアウソに押し付ける。
猫は大人しくアウソに抱かれつつ、尻尾をペシペシぶつけている。
そんな光景を眺めている間に、医者は手際よく消毒をすると包帯を巻き終えてしまっていた。
「もう物は食べれると思うから、食後にコレ飲んで寝な」
瓶と古い包帯を片付け、残った青色の瓶を差し出してきたので受け取る。
中にはザラメのような物が一杯入っていた。
「あと、君グランガトラーサかなんか?一応聞いておこうと思ったんやけど。それによって薬変えんとあかんから」
グラン…ガト…なんて?
良く聞き取れずにもう一度聞こうとしたところでアウソが手を横に振りながら割って入ってきた。
「いんや、こいつグランガトラーサやあらん。ただの人間だってさ。みてくれだってもしかしたら遠い先祖に混じってて先祖返りしてんのかもしれんし」
「ああ、なるほど。ほんじゃ薬はそのままでえーか。何かあったら連絡しといてや」
「うん、おっちゃんありがとうな」
なんか良くわからんけど納得したらしい医者は去っていき、部屋にはアウソが残った。
にしても、さっきの医者エセ関西弁っぽいの話していたな。何でだ?
ザラメが入った瓶をシャカシャカ揺らしていると猫が凄い目付きで瓶を凝視している。あ、これそのうち飛び掛かってくるな。
「ところでアウソさん」
「さん付け」
「………ここは何処ですか?」
ずっと疑問だった事を訊いてみれば「しるか」と言われてしまった。
なんか怒らした?
「ごめんなさい」
「え?」
「え?」
反射的に謝ればアウソは吃驚している。
あれ?
「なんで謝った!?」
「怒ったんじゃないですか?」
「俺どこ怒ってた!?」
あれ?話が噛み合わない。
「ここは何処ですか?って言ったら知るかって言ったじゃないですか」
「しるかだよ!しるか以外の何処でもないよ!?」
その時、ようやく理解した。
「あれ?地名だった?」
「村名だよ!シルカ村!」
「間違えました!」
「マジかよお前!!」
超可笑しいとアウソさんが笑いだし、それにつられて何だか笑いが込み上げてきた。笑いというのは
しかもなんかツボに入ったらしく笑いが止まらくなってきて、おまけに涙も出てきた。
ヤバいお腹痛い。傷痛い。
ヒーヒー言いながら笑いの波が過ぎ去るのを耐えていると、先に笑いがおさまっていたアウソさんが言った。
「なんだ、お前笑えるんじゃん」
どういう事だとアウソさんを見る。
「お前起きてからずっと顔が強張ってて怖い顔してたからよ。ちょっと心配してたんさ」
思わず自分の顔を撫でてしまった。
そう言えばここ最近シンゴとの喧嘩三昧で眉間にめっちゃシワよっていたかも知れない。あ、思い出したらまたシワが。
癖になったら不味い、もともとあまり目付きよろしくない方なのにこれ以上人相悪くなりたくない。ヤバいヤバいと眉間を揉む。
「何があってあんなところ居たのか知らんけど、人間笑ってた方が良いぜ!」
「確かに、どうか…ん!?」
いきなり側頭に物凄い衝撃を喰らって大きく上半身が仰け反る。体勢を立て直そうとするも力を入れると腹部に痛みが走って耐えられずに仰向けに倒れた。目の前には黒のフサフサしたもの。
「ニャー」
猫ォォォ!!!
その様子を見ていた猫を捕まえていたはずのアウソが再び腹を抑えての大爆笑。
以下エンドレス。
その後、買い物行ってたらしいキリコが笑い過ぎて呼吸困難に陥っていた二人を発見し、オレはアウソは一旦笑いだすと笑いのツボが恐ろしく低くなる事が分かったのであった。
「なにあんた達私が居ない間に随分打ち解けたね」
「アタシは知らないわよ。気付いたら二人して笑いこけてたのよ。そのネコも含めてね」
「ふーん。まぁ仲良くなったら良いよ」
夕方近くなってカリアが何やら大きめな袋を持って戻ってきた。
それを机に置くと中から服やら靴やらを取り出す。見るからに全て新品のようだ。
それをこちらへと差し出した。
「はい、これあんたの」
「オレお金持ってないですよ」
そう言えばカリアさんは「はあ?」と言う。
「そんなんいいから着るよ。ていうかお前の為に買って着たのに着てもらわんとこっちが困る!」
「そーよ、あんたアタシらをそんな薄情ものにしたいんか」
「い、いやでもオレ自分の服がありますし」
兵士装備一式、あれで十分だ。
今着ているものは違うから恐らく近くにハンガーかなんかで干してあるはずだ。そう思って周りを見回しているとアウソが肩をとんとん。
「もしかしてアレの事いってるば?」
「アレ?」
アウソが指差す方向を見てみると、入り口近くの棚に布切れが畳まれていた。赤黒い汚れが目立つそれにボタンらしきものを見付けれたのはもう奇跡なようなものだ。
ていうか、もしかしてアレって。
「…オレの服、ですか」
「あれ着るば?こっちの服にしとけって」
「ありがたく頂戴します」
再び差し出された服を有り難く受け取った。
「じゃあ、それに着たらご飯にするから呼ぶよ」
「アタシ達は部屋に戻ってるから」
「はい」
「了解っす」
そう言って再びアウソと二人。正確には+猫。
猫はベッドの端で変な格好で寝ていた。
「てか、なんでアウソさん残ったんすか」
「まだ体の調子が悪い時用の補佐さ、気にしてんではよ着替えろや」
「了解。じゃあ後ろ向いててください、なんかあったら呼びますから」
「へいへーい」
クルリとアウソが後ろを向いて待機したのを確認してから服を着替え始めた。腕が怠すぎるのと怪我している脇腹が引き吊るのが辛かったがなんとか着替え終えることができた。
ホールデンの人が着ているのとも、オレが好んで着ていた兵士服とも違う。とてもシンプルな洋服の上に着物と中華服の間の子のようなフードがついたなんとも言えない不思議な服を羽織るらしい。
(そう言えばカリアさんやキリコさんも変わった服着ていたな)
「ライハ、もういいさ?」
「おー、もう大丈夫」
アウソがこちらを振り返りまじまじと見る。
「結構合うな。顔がイスティジアっぽいからかな。大体ウェズオーの奴等は似合わないんだけどさ」
「イスティジアって何すか?あとウェズオーってのも」
「イスティジアってのは此処よりも東の地域の事で、ウェズオーってもは西の地域。因みにカリアさんの故郷、ロッソ・ウォルタリカは北のノゥズオーで、俺の故郷のルキオは南のサウサジアって呼ばれてる」
「………へえ」
何となくだが、アジア圏、ヨーロッパ圏、北米圏的なものだと理解した。
「因みに此処は?」
「マテラのシルカ村」
「ほう」
そしてようやく今居る所の名前が判明した。
まさか国境を超えた迷子だったとは。
そういや、ホールデンは何処だ?
此処よりも気温が低い感じがしたから北の方とかだろうか?
「んじゃ行きますか。立てる?」
「ちょっと待って」
よいしょとベッドに手をつき立ってみる。少しふらつくものの問題なさそうだ。
「平気そうだな。じゃあ俺ちっとぐぁーしカリアさん達呼んでくるから、待ってろよ」
「分かった」
ガチャリと戸が閉まり足音が遠ざかっていく。
「さて、と」
入り口近くの棚の上の布切れを見詰める。
本当、何があったんだろうな…。
そう言えばスマホとか無事なんだろうか。
布切れから視線をずらすと鞄っぽいのを発見した。辛うじて原型を留めているとしか言えないそれを持ち、中を覗く。底の方に穴が開いて幾つか無くなってしまっているが、なんと奇跡的にスマホや氷雹石や撃炎石が残っていた。
「……タゴスからもらった短刀は無くなっちゃったのか」
結構気に入っていたからショックだ。
「あとは…、ん?」
ゴトンと棚の横で何かが倒れた。
なんだと覗いてみると真っ黒な棒だった。長さは1mほどで、形は木刀のようだ。
「……………消し炭になった木剣?」
恐る恐る触ると炭らしいざらっとした感触は一切なく、むしろ滑らかで驚く持ってみれば重い。木剣と同じか、やや軽いくらい。
「んー?」
日に翳してみると、黒いんだけど奥の方にラメのようなきらきらしたものがある。ルツァの角のようにも見えたが形が違う。なんだこれ?
「よう!!準備は万端よ?」
「!!」
バアンと突然大きな音を立てて扉が開き、カリアが突入してきた。黒い棒に集中していたから大袈裟な位に肩が跳ねた。ついでに心臓が痛いくらいに鳴ってる。
しばらくキョロキョロしていたカリアと目が合い一言。
「どした?」
「いえ、なんでも。大丈夫です」
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