第33話 リヴァイブ

削り取れるだけ削り取ったらその日は太陽が沈む前に撤退することにした。


ノーマル・ラオラの残党はまだいたが、それは明日でもいいらしい。親玉を潰したので、あとは統率のない雑魚を狩るだけだと言っていた。


とりあえず今日は皆の傷の手当てをしないといけない。治療できるのはコノンとスイだが、スイの魔力は底をつき、ノノハラの治療に当たっていたコノンはヘロヘロに疲れていた。


そしてノノハラもさすがに回復しきることは出来なかったようで、こちらもフラフラだ。


今はコノンに手を引かれてなんとか歩いている状態である。


余談ではあるが、治療魔法は攻撃魔法よりも繊細で集中力がいる上に消費が激しいらしい。


「…ん?」


各々剥ぎ取った素材をもって歩いていると先を歩いていたスイが立ち止まった。


「どうしたんですか?」


突然立ち止まったスイに声を掛けるユイ。


「…煙の臭いがする」


「え!」


消し忘れがあったか、とユイが落ち込んだように呟いた。

消火活動頑張ってましたもんね。


「広場周辺のは鎮火していたが、広場に到達する前のあの火柱の一つが残っていたのかもなぁ…」


「ユイさんいけそうですか?」


「…ちょっと魔力がキツいですね」


「わかりました。規模がどれくらいか判りませんが、私もギリなので一緒にいきましょう」


ここで待っていてくださいと言い残して二人は煙の臭いがする方向へと消えていった。


嗅いでみると確かに焦げ臭い気がする。


「おい」


突然話し掛けられて振り替えるとシンゴが真剣そうな顔をして目の前に立っていた。


「なに?」


「ちょっとお前に話があるんだけど」


「話し?」


珍しいこともあったもんだ。

突然食って掛かるこいつがわざわざが『話がある』と言ってきた。


どういう心境の変化?


「なんだよ」


とりあえず聞いてみるかと確り向き合うと、なんだか妙に視線そらすしソワソワしてる。なにその反応気持ち悪いんですけど。


「………ここではちょっと…」


「は?」


「…………」


ちらりとコノンとノノハラの方を横目で見るシンゴ。二人に聞かれたくない話なのか?


そんな様子にコノンが何やらハッとしたような顔をしてこちらを見る。


「大丈夫です!ここで待ってますから!」


「え?」


「ちょっとコノン?」


「心配せずに行ってきてください!」


コノンがいきなりシンゴの援護射撃してきた。オドオドした態度はどこへやら、目をキラキラさせていた。


そんなコノンを見ていたノノハラも仕方ないとばかりにため息をつき、オレに向かって手をヒラヒラさせた。さっさと行ってこい。そんな言葉が聞こえる気がする。


行きたくないのに行かないといけなくなったじゃないか。


「分かった。じゃあ、一応その大剣は此処に置いて」


「なんで」


「お前が怖いから」


いきなり斬られたりする可能性もある。

心配しすぎとかない、いきなり問答無用に模擬戦に放り込まれた記憶があるからな。


「分かったよ。じゃあ、お前もソレ置け」


シンゴに指差された腰に差している剣を言われるままに抜いて地面に置く。

ルツァに折られたやつだから別にいいんだけどね。


お互い剣を置いて、それをノノハラが回収するのを確めてからシンゴの後に付いていった。


生い茂る草を掻き分けて進んでいく。


前を行くシンゴは遠征が多かったからか慣れたように歩いていくが、対して初遠征のオレは疲れているのもあって何回か根っこに躓きそうになりながら歩いていた。


「どこまで行くんだ、戻れなくなるぞ」


「………」


オレの問いにシンゴは答えない。

その代わりに何度かシンゴは自身の手の物を見て何かを確認していた。


先程の場所から大分離れたのか煙の臭いも薄れつつある。


やっぱり引き返そうか。


そう思っていると少し開けたところに出た。そこでようやくシンゴが止まる。


「ここでいいか」


シンゴが振り返り、向かい合う。


「で、なんだよ。話って」


「お前さ、魔法使えなかったんじゃねーの?嘘だったのか?嘘ついてたのか?」


話って、そんなことか。


「使い物にならないほど威力が弱かったんだよ。使えなかったわけじゃない。練習もずっとしていたからようやく並大抵くらいには使えるようになっただけだ」


「ふーん、でもそれを今まで皆に隠していたんだろ?」


「…何が言いたいんだよ」


シンゴがニヤリと笑った。





「お前、“魔族”だろ」





しばし思考が停止した。

そしてようやく思考が動き出したとき、素直な言葉が口をついて出た。




「お前、バカなの?」




その瞬間、お互いの頭のなかでコングが鳴り響いた。




「何をどう考えればオレが魔族っていう結論に至るのか全っ然わかんないんだけど!!どういう情報を繋ぎ合わせたらそうなるの!!」


「はぁあ!?バカなのはお前だよ!!だいたい神聖魔法でダメージ受けるのなんか魔ノ者達だけ!それに聞いたんだ!!」


「なにをだよ!!」


「魔ノ者には“シンエン”と呼ばれる奴等がいて、そいつらは人に化けて周りを惑わして陥れる強い能力を持っているんだって!!」


「だからそれがなんだよ!!」


「お前がそうなんだろ!?だから勇者の癖にそんなに使い物にならなくても城に置いてもらっているんだろ!!しかも力が使えないっているのも本当は嘘ついているとしか思えないんだよ!!ウソつき!!」


「言ってること無茶苦茶なの気付いているか!?それにオレは反転の呪いとかいうスゲーめんどくさい呪いのせいで神聖魔法が毒になっているだけで、ちゃんと解いて貰うために四苦八苦してんだよ!!思い付きだけで決め付けんな!!」


「どうあっても認めないんだな!!」


「認めるもなにも本当のこと言っているだけだ!!そんなにオレが魔族だっていうんなら証拠を出してみろよ!!」


「おお!!見せてやるさ!!」


シンゴが腰のポーチから掌に納まるほどの大きさをした白い箱を取り出した。

何の飾り気もない箱には黒いビー玉のような物が埋め込まれている。


額に怒りの筋を立てたまま、シンゴはその箱をこちらへ向けて大きく息を吸った。




「偽りの衣を脱ぎ捨て、真の姿を取り戻せ!《リヴァイブ》!!」








ドクン。




突然心臓が大きく高鳴った。


「え…」


ゾワゾワとした感覚が全身を駆け巡り、四肢の先が火でも着けられたのかと思うほど熱い。


次第に動悸(どうき)が激しくなっていき、呼吸も上手く出来なくなってきた。

なにこれ。


「…っ…う」


動悸のせいか頭まで痛くなってきた。


足が震える。


目の前でシンゴが箱を左手、そして、何故か右手に先程のとは違う大剣を手にしていた。


なんでだ?

さっきまでそんな大剣どこにも無かっただろうが。


シンゴが箱をそのままに、剣先をこちらに向けてきた。


「……ほ…ほら!!やっぱりーーの言う通りだった!!おまーーは、まーー………!!」


シンゴの言葉を最後まで聞き取ることができず、オレの意識が途絶えた。

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