第32話 剥ぎ取りましょう

ルツァ・ラオラが燃えている。

それを横目に見ながらスイに手当てを受けていた。


といっても痛み止の薬飲んで、折れた腕に添え木をして固定している位だが。

擦り傷切り傷は軽く消毒をして、たん瘤は無視。ほっとけば治るだろう。


あの後、ノノハラは魔力切れでぶっ倒れ、コノンが慌てて回復魔法を掛けている。

ユイはノノハラの魔法のせいで結局使うことが無かった巨大な渦を巻いた水の魂を上空に放って強制的に雨を降らせて森の消火活動に移った。


そしてシンゴ。


「………」


ブツブツ何か言いながら剣の手入れをしていた。なんか負のオーラが出てるし、怖かったので関わらないことにした。


スイ曰く、今回あまり活躍してないし見せ場をライハ様とノノハラ様に取られてしまったから不貞腐れているんでしょう、との事。知らんがな。


「見せ場っていってもなぁ、ルツァが来てヤバかったから少し足留めしたくらいだし」


「そのおかげでノノハラ様の最大魔法を外すこと無く発動出来たわけですから、それだけでも大手がらですよ。まぁ、完全なオーバーキルですが」


「あ、やっぱりオーバーキルなんですね、あれ」


いまだにメラメラと燃えるルツァ。

そうだよなぁ、試しにユイが消そうとして大水玉を放っても炎に触れた瞬間蒸発したもんな。


「ルツァを倒したのに証拠がないとか、最悪です」


「証拠が必要なんですか?」


「必要ですね、なければ倒したとカウントされませんし報酬も無しです」


「うわぁ」


なんだっけ、確かルツァ・ラオラだけで結構なお金になるんだよなぁ。

それが倒し損とか精神的にもキツいな。


「後でもう一度消火を試みます。今度は私も手伝うので多少は変わるでしょう」


「スイさんは水属性なんですか?」


「水も持っています。人によっては元から二つ、訓練次第で五つ持っている人もいますよ。大変稀ですけどね」


「へー」


てっきり一人一属性だと思っていたから吃驚だ。


「さて、そろそろ行きますね」


立ち上がってスイがルツァの近くに歩いていくと、消火活動が終わったユイが走っていく。


なんか、仲良いよなあの二人。


二人で作戦を立てたようでルツァの左右に別れて立つ。途端に二人からキラキラとした靄が立ち上った。多分だけどアレ魔力なんかな。


「そういやルツァもなんか光っている気がする」


といってもキラキラとではなく、パチパチと何かがはぜている感じだ。色も何となく黒っぽい。それがノノハラの炎から上がる煙に混じって立ち上っていた。


「…種類が違うのか?」


そう呟いた瞬間ヒヤリとした風がほほを撫でる。

目を向けると二人の背後にうねうねとした水の大蛇が首をもたげていた。


鱗も水でできている為、周囲の色を反射してなんとも不思議な色を放っていた。


「ユイ様!いきますよ!」


「はい!」


大蛇が動く。

ゆったりとした動きではあるが、二匹の大蛇が左右からまるで反転させた鏡であるかのように同じ動きをし、左右からルツァを渦を描きながら巻き込んでいく。


みるみる内に二匹の大蛇は巨大な水の柱となり、炎は端から削り取られていくように消えていく。全ての炎が消えた瞬間水の柱は崩れていって、残ったのは巨大な水溜まりとこんがりを通り越して黒くなったルツァ。


美味しくはなさそうだ。


「よし!剥ぎ取りますか!」


激しく息切れしながらもナイフ片手にうきうきと黒焦げルツァへ向かうスイ。その後を倍の息切れをしているユイが続く。フラフラしているけど大丈夫か?


「ライハ様!何しているんですか!剥ぎ取りますよ!」


「今行きます!」


スイが早くこいと手を振っている。

鞄からタゴスに貰った小刀を取り出すと駆け足でルツァの元へ駆け出した。





所々炭化しているルツァ。

いったいどれだけの温度で焼かれていたのか。


そんなことを思いながら小刀で証拠になりそうな角を削り取る。


といってもこいつが強敵で、なかなか削り取れない。さすがあの炎の中で無事だった角だ。煤(すす)が付いているものの、それさえ拭えば元の黒く艶やかな光沢を放つ、見事なものだなぁ。


「………売ったら幾らくらいかな?」


「だいたい60万ゴラくらいだな」


「そんなに!!?」


確か1ゴラ=100円だったはずだから1000万円相当!

これは…、ルツァメインのハンターが沸くはずだわ、角だけでこれだったら全体無事なら一億はいっていたかもしれない。

ちなみに1ゴラ以下の通貨は1ルォン=1円である。


「といっても損傷具合によりますけどね。今回は煤(すす)けているだけなので助かりました…」


と、どこかほっとしたようにルツァの喉元辺りをゴリゴリ削っているスイが言った。


「アマツ君、もっと根元から削った方がいい。この角は骨じゃなくて、毛と皮膚が魔力で変異したやつだから」


「え、はい」


すでに反対側の角を剥ぎ取ったらしいユイが助言をくれたので、小刀を角の根元をあてがって削ってみると、さっきまでの苦労は何だったのかと思うほど呆気なく角が取れた。


角はずっしりとしていたが、想像していたよりも軽い。片手で担げるほどだ。


「よし、こっちも取れました」


「ん?」


嬉しそうなスイの声で目をやると、ルツァの喉元に右腕を突っ込んで掻き回している姿があった。


え、なにしてんですか?


ブチブチと何かが切れる音をさせながらスイがゆっくりと腕を引き戻すと、手のなかに綺麗な石がおさまっていた。


ゴツゴツとした黒い石の表面には所々ヒビが入り、その中から赤色が見える。まるで黒い岩の隙間から見える溶岩のようだ。


「うわぁ、綺麗ですね」


「これは魔宝石の原石ですよ」


「宝石なんですか」


「宝石でもありますね。これもなかなかのレアで、高いんですよ。基本こういうルツァや、大型の魔物にしか出来ないものですからね」


「へー」


角も綺麗だったが、この魔宝石も素晴らしい。

何となくだけど、ルツァメインのハンターの気持ちが分かったような気がした。

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