第31話 ルツァ・ラオラ③

一旦肉体強化を解き、襲いかかってくるノーマル・ラオラを矢が勿体ないので剣で蹴散らしているとある事に気が付いた。


「……おっと…」


ルツァの放つ火炎柱のせいで広場周辺の森が燃えていた。


幸いにも村の畑方向ではなかったが、いつ風向きが変わってそっちの方に燃え広がらないと言い切れない。残念なことにユイとスイは気付いているのかいないのか分からないが手一杯で、シンゴに至っては襲い掛かる炎を風魔法で無理矢理方向転換させて凌いでいた。


多分だけど、シンゴも原因だな。


逸らした炎が火炎放射機みたいになって森へと襲い掛かっていた。

せっかくスイがノノハラに魔法禁止令出したのに、これじゃあ意味がない。

火を消したいけどもユイ忙しそうだし、オレには手段がない。


となるとさっさとルツァを倒さないと。


どうしたもんかと考えていたら、ルツァの進路が徐々にこちらへ変わり、そのまま突進してきた。


「………え!!」


ちょっと待って!

何でこっち来るの!?


それに気付いたスイが進路を変えようとするも怒り狂ったルツァには利かずにどんどん距離が縮まってくる。


やめてやめて!こっち来ないで!


いつの間にか周りのノーマル・ラオラは消えており、ルツァの進路を邪魔しないように退避していた。


ルツァの進路はオレ…ではなく後ろの二人だ。

だと思う多分。


だから避けようと思ったらオレは避けられるのだ。しかし、それではあの場から動けない後ろの二人は今度こそ直撃を喰らってしまう。いくらあの壁があったとしてもあの巨体のもうスピード衝突で無事であるはずがない。


「くそ」


威嚇、あわよくば目にでも刺さってくれと思いながら剣から片手弓へと替えて矢を三連射するが、やはり鎧のような毛皮でダメージは無く。目の付近へ飛んでいった矢も角でうまく弾かれた。


「ライハ様!避けてください!!」


スイが叫ぶ。


オレだって逃げたい!逃げれるなら!

だってオレに出来ることと言ったら精々静電気を強めにしたスタンガンくらいでーーー


「…スタンガン?」


ふとルツァの体を見る。

度重なるユイの魔法で体毛は水を含んで、体が揺れる度に滴が飛び散っている。


左手が柄に触れた。


動きを鈍らせるくらいなら、出来るかもしれない。


大きく息を吸って止める。


地鳴りが大きくなるのを感じながら集中して手のひらに魔力を集める。残念ながらセンスが無いのか練習不足だかで身体強化を施しながらこの静電気は発動できない。だから、チャンスは一度きり。


いつも以上に多目に集めていくと指先がビリビリと痺れ始めた。


目の前にいるオレに気付いたルツァが雄叫びを上げて角を大きく振りかざした、その瞬間、全力で駆け出した。


迫る巨体、頭上から降ってくる凶器の気配を感じながら勢いのままルツァの四肢の間に滑り込むと剣を抜き放つ。狙うは最初にシンゴが入れた胸元の傷。


うっすらと赤く染まっているそこに剣先が触れた瞬間、溜め込んだ今までで最大の魔力を全て電気に変えて解き放った。




真っ白に染まる視界に青白い電流がチラチラと映り込む。


雷が近くに落ちたような物凄い轟音の後、ルツァの体が激しく痙攣するとバランスを失い倒れ込んできた。


「!!!」


押し潰される!

慌ててルツァの下から逃げようとした時、すぐ目の前にルツァの恐ろしく太い後ろ足が迫っていた。


恐怖が全身を駆け抜ける。


「ーーがっは…!!」


凄まじい衝撃で一瞬意識が飛び掛け、次の瞬間には地面を転がっていた。


痛い。

咄嗟に剣を盾にしたけど真っ二つに折られ、更に添えた左腕すら綺麗に折られた。幸いにもその他は無事だったが、その代わり地面に叩き付けられたときに背中をしこたま打って呼吸が出来ない。


死ぬほど痛い。


呻きながらルツァはどうなったかと顔を上げて探すと、コノン達のいる壁のすぐそばで転がっており、悲鳴のような声を上げながら立ち上がろうともがいていた。


(…あ…あぶねー。

もう少しでコノン達の所に突っ込ませるところだった…)


思わず冷や汗が流れる。


「ナイスだ、アマツ君!休んでてくれ!」


「…………」


「ライハ様!大丈夫ですか!?」


グッジョブサインをしながらユイがチャンスだとルツァの方へと駆けていき、シンゴが不貞腐れたような顔で大剣を担いでユイの後に続く。


そして更にその後ろから顔を青くしたスイが此方へと駆けてきた。


とりあえず大丈夫ではないので首を横に振る。

骨、折れました。


何とか呼吸が出来るようになってくるとその代わりと言うように左腕がズックンズックンと痛みだしてきた。思わず涙が出るくらい痛い。


「ちょっと左腕が、折れ…」


その事を報告しようとしたら途中凄い爆発音で声が掻き消された。


「!?」


何事かと見るとコノンの土の壁から火柱が立ち上っていた。


まさか、ルツァの!?

と思ったら、火柱は崖の内部から上がっている。


「誰?やったの…」


ゆっくりだが明らかに怒気をはらんだ声がしてそちらに目を向けると、ゆらりと炎の中から影が出てきた。…ノノハラ?


「コノン怪我させたのこいつか!!!」


カッと目を見開き倒れているルツァをノノハラが視線だけで射殺すんじゃないかというくらいの形相で睨んだ。


恐い。

ノノハラの背後に般若が見えるくらいに恐い。


そしてそう思っているのはオレだけじゃないらしく、ユイはルツァの手前で魔法を発動させ掛けたまま動きを止め、シンゴに至っては剣を構えているものの凄い腰が引けている。


そして二人とも視線はノノハラを向いていた。


「!?」


左腕の痛みすら忘れてその異常な光景を眺めていると、更に異常な事態が発生した。

ノノハラの後ろの般若がボコボコと音を立てながら次第に大きくなり、遂に実体を持ち始めたのを見て思わず目を擦る。


あれ?錯覚?


もう一度見る。

上半身が出来ていた。

見間違いではない、あれは本当に実体がある。


え?何あれ魔法なの?


「許さない…」


ノノハラが右腕を振り上げると後ろの般若も連動して右腕を振り上げ、指先が天を向くと同時に炎が吹き上がって一振りの剣がみるみる内に出来上がっていく。


え?ほんと何あれ?

しかもノノハラなんか高速でブツブツ言ってるし!


「ーー後悔しても もう遅い…、私が背中を押してやろう《葬送の剣》」


ノノハラが死神のような瞳で恐怖で動けなくなっているルツァに向かって振り上げた腕を勢いよく振り下ろした。

その瞬間、般若の剣がルツァの胴体に突き刺さり、ルツァは断末魔を上げながら青白い炎に包まれた。

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