第7話 ケーキパワー


自己紹介しつつ少し力が戻ってきて、自力で階段を登ってみる。まだ多少膝はガクガクするけど大丈夫そうだ。


「とすると、他の人はあのスライムはなかったんですかい?」


「流動生物(スライム)とは失礼な!霊輝(レイキ)と呼びなさい!霊輝を天から降ろすのも大変なんですよ!他の方は籠陽(コモレビ)だけで事足りました!」


「通常なら籠陽だけで充分すぎんですよね!あなたの体質が悪いんです!これは上乗せ量貰わないといけないくらいの大変さなんですよね!賃金あげろ!」


「サコネ、しっ!それここで言っちゃダメ!」


やっぱり夢に出てきたオウムはこいつらだったか。


「お前!今サコネが言ったこと他に漏らしたら本物の流動生物その他もろもろ大量に召喚してお前にくっ付けてやるよ!」


「言いませんから止めてください」


そんな感じでコント的な会話を交わしつつ部屋についた。その頃になると彼女らと大分仲良くなり、この国の事を色々教えてもらった。もちろん愚痴付きではあるが。


ここホールデン教皇国は周りを5つの国に囲まれた帝国で、首都国コアスが周りの細々とした都市国を支配している。都市国というのは一つの街が国みたいになっていることらしい。首都国と都市国全部合わせたのがホールデン教皇国ってこと。合衆国みたいだ。


一神教で、スティータ神を祀っている。


スティータ神は『移動』を司る神で、その為にこの国では召喚魔法が盛んなのだとか。


「なのでこの国では『移』属性を持つ魔術師が多く集まりますね、もちろんお師匠様、ウロ様はこの国髄一の召喚大魔術師であります。なんせ世界の膜すら関係なく呼び寄せる事ができますからね」


「私たちもNo.2の実力はあるのですが、天から神のお力を下ろす程度で、世界を越えることは出来ないんですよ」


「まじか、ウロさん凄いな」


よく昇天する変態なのにという言葉は飲み込んだ。


「通常なら召喚と同時に神からの贈り物が転送されて、そこで更にお師匠様の力で定着させるはずなんですがー。ついでに魔力の耐性とか、身体能力多少上がるようにしてあるはずなんですけどねー」


「あなた、やっぱりおかしいんだよ。一日考えてみてやっぱり魔力中毒起こしてんのあなたの体質が悪いんです」


じとりとした視線を感じる。

そんな事言われても、本人にはどうすることもできないんですけどね。


そしてなんとか部屋にたどり着いた。


その頃にはすっかり体調も良くなり、しっかりと力も入るようになっていた。さすがに地下1階から地上7階まで階段上るの超キツいので誰かエレベータ作ってくださいお願いします。


「あ、そうだ。もしよかったら二人にいいものあげますよ。色々教えてもらっちゃったし」


コンビニで買ったケーキをあげようとビニール袋を探しているとベッド近くの棚に置いてあった。買ったのガトーショコラだから、何度か落としたけどそこまで形は崩れていないはず。

賞味期限は心配だけど。


袋を開いてみると何故か中はドライアイスでも入れたのかってくらいに冷えきっていた。


「………なにこれ」


袋の底に転がっている石を取り出す、どうやらこの石が袋の中を氷河期にしている原因らしい。見た目は氷みたいだが、氷ではない。直で触っていても溶け出して水が滴り落ちなかった。


「ああ、それは氷雹石(ヒヒョウセキ)です。北の国から取り寄せた物で、この石の近くに置いたものは、石から出る冷気によって冷やされ続けるのですよ。一応食べ物は暖まると腐るので入れておきました」


「物冷やすのに便利です。食べ物の保存もききます。ただずっと置きっぱなしにしていると近くに置いたものが凍り付いてしまう欠点がありますが」


「なるほど」


だからケーキがガトーショコラなのに表面に霜が付いてるのか。ケーキは温いより冷たい方がいいから、むしろありがたい。

キンキンに冷えたケーキを取り出して近くの机に置くと、二人を手招きした。


「?」

「?」


はてなを飛ばしながらやって来ると、ケーキの入っている容器を外して二人に差し出した。二個入りで良かったわ。


「これあげます。どうぞ食べてください」


「!」


二人は同時に目を見開き互いに顔を会わせ、ケーキを指差しながら再びこちらを向く。


「も…貰っても良いのですか…?」


「うん、どうぞ」


「これは夢じゃないのか…?」


「夢じゃないから、大丈夫」


なにやら様子がおかしい。二人は挙動不審な動きで辺りを見回すと、ではと言いながらケーキを取った。取り方も恐る恐る。


「ふぉおおおお…、サコネ、本物の焼き菓子だ。しかも“チョコレート”が覆っているよ…」


「しかも、冷たい…!そしてこのサイズ!ウコヨ!長年の夢が叶ったよ!」


「………大袈裟じゃね?」


「何を言うんですか!焼き菓子ですよ!ドルイプチェ国しかこんな素敵なもの作れないんです!しかもチョコレートとか!オノロ様ですら滅多に食べられない贅沢品なのです!」


「しかもこんなにキンキンに冷えたものはないのですね!一生に一度も食べれない者の方が多いんです!ああ…、私明日死ぬのかな?」


「やめて、それ私も思ってたけど口にしちゃダメ」


ここではケーキをあまり食べることが出来ないのか。食べることが出来るのはドルイなんとかという国だけとか、すごい限定。レア物かよ。

そんな二人だが、覚悟を決めたような真剣な眼差しになるとようやくケーキを一口食べた。


そして号泣した。


恐るべきケーキパワー。


食べ終わった二人は至福の時を味わったような顔で余韻に浸った後で、部屋を後にした。

こんな言葉を残して。


「ライハ様、素敵な贈り物をありがとうございました。このご恩はこの先絶対に忘れません。何かありましたら助けますので、いつでも呼んでくださいね」


「私達No.2ですけど、出来ること全てやりますので。あ、相談にも乗りますのでお気軽に頼ってくださいよ」


やはりケーキパワー恐るべしである。


こうしてここに来て最初の仲の良い人達が出来たのであった。

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