第6話 勇者への贈り物

さっきの爆発みたいなのは訓練所で特訓をしていたノノハラの発動した魔法だった。

どうやらコントロールミスで城に飛んでいき、この部屋近くの外壁に着弾したらしい。


あの後訓練着と思われるラフな格好をしたノノハラがやって来てウロに謝っていたので間違いないだろう。ちなみに同じ被害者であるオレはスルーされた。


どうにも初日の顔合わせで嫌われてしまったみたいだ。


「では行きましょうか」


「はい」


ウロに連れられて城の地下へと降りていく。初日の時、途中で倒れてしまったので神から勇者への贈り物が貰えなかったんだとかで、今からそれを貰う儀式をするらしい。


「着きましたよ、この中に入ってください」


ウロは重厚な扉の前で止まった。

飾り気は全く無い鉄の扉。唯一あるのが何かの紋様のみ、何かの花だろうか、雪の結晶と花とが重なったような紋様だ。


扉がゆっくりと開かれて、中へと促される。


「うわぁ、これはまた…」


教会に似た空間だった。

左右に長い椅子が並び、前方のステンドグラスに黄金の花弁と雪の結晶が合わさったような物が祀られている。ここは地下なのに何故ステンドグラスが光っているのかという疑問はさておき、気になる点が一つ。


「…十字架じゃないのか」


「あれはスティータ様の印です。ホーリネスクリスタと呼んでおります。神聖なるスティータ様が下さった力や恩恵の証として祀っているんですよ」


「へぇ」


ずっと見てたのでウロが説明をしてくれた。直訳すると神聖結晶か。また凄いファンタジー的な名前だな。


「更に白魔法を使う際の魔力の形だとも言われてますがね」


「魔力に形があるんですか」


「はい。通常見れないものですが、魔力浸透が強い方、特殊な魔法を使ったとき、濃い魔力が発生しているときには見られます。もちろんスティータ様が降臨なさる時には全員見られますよ。スティータ様が強大で神聖な魔力を帯びているからです」


「なるほど」


降臨することあるんだ。

感心しているとウロがこちらへ来いと手招きをしている。


「そこに座って、そう、目をつぶって静かにしていてください」


神聖結晶の前で座らされ、何かの首飾りを掛けられた。

何の首飾りか訊くと、それをするだけで成功率がぐんと上がるらしい。


「それでは儀式を始めます」


ウロが言葉を紡ぎ始める。日本語でも英語でも無い、まったく知らない言葉をまるで歌うかのように。


(そういえば、ここに召喚される前も同じ感じの言葉が聞こえたな)


目蓋の裏でも分かるほどに部屋が明るくなり、空気が浄められていく。その瞬間、がくりと体の力が抜け落ちた。


「………」


少し目を開けてウロの様子を見るが、こちらの事ほったらかしで昇天し始めてたので諦める。

今度は頑張ろう。


そうしているうちに室内の空気は空気洗浄機並の勢いで清浄化されていき、それに比例して体調はどんどん悪化していく。


(なんか気分悪くなってきたけど、まだ大丈夫だ。まだ耐えられる)


大丈夫大丈夫と心の中で言い聞かせて気持ち悪さを誤魔化していると、首もとに何かが触れた。


「!?」


ヌルンとした変に弾力があってヒヤリと冷たい。一瞬もしかして蛇なのかと思ったけど、それにしては動きがなんか変である。しかも途中で分裂しているような感覚があるから、その時点で蛇という可能性は捨て去った。

そのよく分からないものは背中やら首やらを這いずり回り、お腹の方へとやって来た。鳥肌ヤバイ。しかも少しずつ量が増えてる。


振り払いたいのを我慢して、出来るだけ無心になるように心の中で念仏を唱えていると、背中側にいた何かは首の前側の方へとやって来た。


何かは途中で方向を変えて胸元辺りをしきりに動き回り、首飾りに触れた瞬間体中にへばりついていたものが一斉に胸側に集まってきた。気持ち悪さに思わず目を開いてしまう。そして胸元の光景を見た、見てしまった。


キラキラと光るもやを纏うスライム状のモノが胸元で大量に蠢いてた。


(なにこれキモい!!)


次の瞬間、ズルン、とスライム状のモノが服やら皮膚やらを完全無視して体内に入り込んできた。


「うっ!!?」


飛び出し掛けた悲鳴が口元に当てられたウロの手のせいで押し止められ、払い除けようとした腕も同じく誰かの手に拘束されて動けない。


(何すんだ!!放せ!!)


「…静かに、暴れたらこの子達が力を受け渡せない…」


声が怖い。マジな声出してる。


「っ!!」


その間にもスライム状のモノは次々に体内に潜り込んでくる。皮膚を通過する度に皮膚が引き伸ばされるような痛みが発生するし、中に入ったら入ったで何か圧迫されて苦しい。おかげで冷や汗だらだら。


(おかしい、オレの想像とかでは神さんからの贈り物ってもっとこう光を浴びて受け取るものだと思ってたのに!こんなに気色悪いもんだと聞いてない!!)


「もう少し…」


嬉しそうなウロの声がして見てみると、唯一見える口元がめちゃくちゃ笑ってる。


(もう少しじゃねーよ!てかなんで笑ってんだよ!こっちは笑えないよ!!)


口を塞がれているせいで悪態を吐きたいのに吐けない、腹が立つ。


スライム状の最後のモノが胸元に収まると、ようやくウロと知らない誰かが拘束を解いてくれた。


「うぇ、気持ち悪い」


生クリームだけを大量摂取した後みたい。この胸元に残る不愉快さと胃もたれの感覚なんかそっくりだ。


「これで儀式は終わりです、お疲れさまでした」


満足そうなウロが汗をぬぐうような仕草をしながら立ち上がる。その顔は良い運動をしたとでも言いたげな何処か満足そうな表情をしており、イラッとした。


「立てますか?」


「無理です、力が入りません」


「そうですか、仕方ないですね。ウコヨ、サコネ、立ち上がらせるの手伝ってください」


はい、と背後から二つの声が聞こえた。首だけ動かして確認すると白装束を身に纏い頭巾を被っている双子が居た。


夢に出てきたオウムたちに似ている気がする。


「失礼しますよ」

「失礼しますね」


同時に脇の下に腕を入れられ無理矢理立たされ、そのまま部屋へと引き摺られながら連行されたのだった。


連行途中で二羽のオウム、じゃなかった、双子の女性達に訊ねてみた。


「他の勇者達もあんな感じの儀式をしたんですか?」


オレンジの髪に緑のメッシュが入った方が答えた。


「いいえ、あんなに大変なやつ毎回やってたら私たちの身が持ちませんよ。あ、ちなみに私はウコヨです。よろしくお願いします」


次いで黄色の髪に青のメッシュを入れた方が答える。


「あなた、なんか知らないけど魔力中毒起こしやすいからね、ちょっと強引だけど外側から徐々にではなく内側に直接注入させていただきました。ちなみに私がサコネって名前です。よろしくお願いしますね」


「よろしくお願いします。なるほど、オレ魔力中毒起こしやすいんですか。ちなみにオレはライハと言います」


「知ってますよ」

「知ってますからね」


「そうですか」

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