第8話 異常発生中
「そう言えば首飾り返さなくていいのか?」
二人が去った後、儀式の時に使った首飾りの事を思い出した。外そうと手を伸ばすが首飾りの感覚がない。位置が違ったのかと胸元を見ると、何故か首にかけっぱなししていたはずの首飾りが消えていた。
「……あれ?どこいった?」
どこかで落としたのか。
レイキとかいう物が体にへばりついている時にはあったはず、とすると無くなったのはその後だ。
階段で落としたのか。いやいや、いくらなんでも普通に登ってたくらいで落とすわけない。部屋のなかを見回すが、やっぱりない。
「………」
何となく襟から胸元を覗いてみると、驚きに目を見開いた。
首飾りがタトゥーのように胸元に入り込んでいた。というか、赤色の刺青に変わっていた。
「え!?なにこれ!?うわ取れないし、うわぁー」
爪で引っ掻いても、摘まんでも、伸ばしても取れない、というか自分の皮膚を触っている感覚がした。もう意味がわからないよ。
「もういいや、考えるのめんどくさくなってきたし、こういうもんだと思おう。魔法スゲー」
5分ほど頑張ったのだが、いっこうに取れる様子がないので諦めた。人間諦めが大切です。
それから一時間後、氷雹石によって冷されまくった漫画をベッドの上で読んでいると、ウロが部屋にやって来た。
「ライハ様、体調はもう大丈夫ですか?」
「体調?あー、もう大丈夫です。元気になりました」
「それはよかった。これからライハ様の魔属性や能力を測りますので私と一緒に来てください」
「わかりました」
読み掛けの漫画を袋に突っ込んで、ウロの後についていった。
また階段を下りてさっきとは違う道をいく。城のだけあってものすごく広い、これ一人で出歩いたら迷子になりそうだ。
しばらく歩いていると扉には剣のマークと弓のマークが付いている扉が現れた。訓練所ってここかな。
扉が開かれ中へ促される。凄い広場だった。奥の方では兵士の方達が各々特訓中、手前の方で新しい兵士達なのか少年達が教官に怒鳴られながら走っている。
それを横目で眺めながら、ウロが入っていった建物目指して小走りで駆けた。
「おお」
ついたのは黒の石を正方形に切り取ったかのような不思議な建物だった。墨でもぶっかけたのかと思う程に黒く、だけども表面は滑らかで光を鏡のように反射していた。こんなに黒いのに顔の細部までちゃんと映るとか。
唯一の鉄の扉から中に入るとさらに驚く。内部は四方が全て木製作りだった。高い天井まで木に覆われているので、木の香りが半端ない。何となくサウナの中にいるような気分になってきた。いや、全然暑くないんだけどね、むしろ涼しい。
「この部屋は魔力を吸って成長する木、マクイ木を使っておりますので、魔法を全力で使っても大丈夫なんですよ」
ウロから説明。
さっそく異世界限定不思議物質第二段の登場です。第一段はもちろん氷雹石。
「ここで属性の確認と、魔法の使い方を練習していただきます。まずは属性の確認をしますのでこれをもって魔力入れてください」
渡されたのは大きめなビー玉。
この大きさでも水晶玉と呼ぶのかは分からないが、それを持って……、ウロを見る。
「オレ、魔力の入れ方分からんです」
「………あれ?魔法ありませんでした?」
不思議そうな顔のウロ。
「いや、魔法見たことないです」
魔力の説明を受けた。
魔力はこの空気中存在する魔素が集まった物で、全ての物質に存在する生きるための源でもある。
人は魔力を溜め込むことができ、多くの魔力を持っている者はそれを操り魔法という不思議な力を発生させることができるのだ。魔力の基本属性は表の『流水』『電撃』『疾風』『火焔』『土石』『樹木』の6つと裏の『凍結』『移動』『浮遊』『爆発』『重力』『神聖』の6つ、合わせて12の属性が存在する。人はどれかの属性が当てはまり、それぞれの魔法を発動させることが出来る。
「魔力の移動のさせ方は、イメージ力。身体中に薄い靄(モヤ)を纏っているのをイメージして、その靄を水晶に流し込むようにしてください。そう、そんな風に」
靄をイメージし始めてから、不思議な事にキラキラを纏った透明な靄が見え始めた。これが魔力なのか。
それを意識的に水晶に流し込むようにイメージすると、水晶の方向に血液が集まるような感覚を感じた。途端に水晶の中に変化が現れた。水晶の色が濁り、中の方で小さく放電し始めたのだ。
「おおー!綺麗!」
「ライハ様の属性は『電撃』ですね。攻撃力が高く、攻撃スピードが全属性でもトップのものです。さすが勇者様ですね」
そうか電撃か。
頭の中に雷を使うキャラクターが浮かぶ。そうか、オレもレー●ガンが使えるのか。雷落とせるのか。
一気にテンションが上がる。
早く魔法使って雷落としてみたい。
水晶玉をウロに返して次の指示を待つと、期待通りに次は魔法を発動させる勉強をすることになった。
「それではさっそく魔法を使ってみましょう」
「はい!」
ということで、ウロの指導のもと魔法を発動させてみた。
「…………」
「…………」
「……………静電気?」
結論から言いますと、レー●ガンも雷落とすことも出来ませんでした。
なにこの微電気、掌を覆うこの薄い微電気の膜でどうしろと。
「ウロさん」
「はい…」
「肩、貸してくれませんか」
「ええ、もう好きに使ってください…」
掌をウロの肩に当てる。
「効きますか?」
「凄い肩凝りに効きますね、気持ちがいいです…」
「それは良かった」
肩凝り解消に効果絶大です。
うん、違うよね。オレの望んでたのはこれじゃない。
「こんなささやかな魔法は魔法ではない」
「何でなんですかぁーー……」
「オレが知りたいです」
ウロもなんか凄い落ち込み手を地面について項垂れている。オレがそれをしたいので変わってもらえますか?
「次、次こそは大丈夫だと思いますので!部屋の外に行きましょう!体力測定をします!」
気を取り直したウロが無理矢理テンション上げて外へと連れ出した。ウロの頬に涙が見えた気がしたが気のせいだと思いスルーさせていただきます。
「さ!試しに広場を一周走ってみてください!何なら何周しても良いですし、兵士達を蹴散らしてきても構いませんよ!」
さあ行けとばかりに広場を指差すので走ってみた。そうだな、体は軽くなっている(気がする)。兵士と組手しても30秒くらいは粘れる(気がする)。
嘘だよ!なんも変わってねーよ、ウロさん!オレなんも変わってねーよ!
「………なぜぇぇぇぇぇ……」
一周走って戻ってくるとウロが膝を抱えて泣いていた。
「ウロさん、戻ってきましたけど」
声を掛けてようやく帰ってきた事に気がついたウロはふらふらとした足取りでこちらにやって来て、肩を掴んだ。
「何でぇぇぇぇ!!なんで霊輝を直接体内に入れたのに…っ!何故貴方は効いていないんですか!?」
「いや、オレに訊かれても困ります」
「貴方おかしいんじゃないですか!?」
「それさっき双子にも言われましたよ」
肩掴んだままズルズルと崩れ落ちていくウロの様子で、ただ事ではないと思ったらしい兵士達がなんだなんだと集まってきた。
「…………まさか」
ハッとした顔を上げたウロが顔を凝視。
(なんすか?なんかついてますか?)
「聖火日の前…何か購入した物はありますか…?それを身に付けてから、何か、そう、運が悪くなったり、病気になったり」
「聖火日?」
クリスマスの事だろうか。
記憶を引きずり出してみる。
(えーと、クリスマス前は……まだフラれていなかったから……アイツにプレゼント買って、ケーキの予約して、プレゼント買いがてらオレも自分のプレゼント買って。……どれだろう。アイツのプレゼントは棄てたし、ケーキの予約したけど取りに行けなかったし、とすると残るはオレが買ったやつ)
ちょうどいいゴツさで格好いいデザインだったから一目惚れして買ったものだ。
「前日にピアスを買いましたね」
これ、とウロに耳に付いてるピアスを指差す。すると、ウロがピアス見た瞬間に固まる。状況を飲み込めていない野次馬兵士達(まだ集まってくる)、ピアスを見せる格好のまま動けないでいるライハとウロの次の動作を待っている。てか本当にどうしたの、石化してんぞ。
「そ…」
「そ?」
「それだああああ!!!」
ビシリ。
そんな効果音が似合う動作でウロに指差されたのだった。
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