第13話 俺にしかできないらしい。ウソだろ
帰り、HR後。
「湊くんいますかーっ?」
明媚な声が耳朶を打った。
反射的にドアを見ると、そこには案の定栞里が立っている。
もう男子たちは諦めムードだ。
一般的には、俺が黒魔術を操り、栞里を思うがままに操っていると思われているらしい。(どんな話だよ!?)
「あ、いた!湊くん!!」
ぱたぱたと手を振る栞里は、可愛い。
うん、すごく可愛い。
まあ、本性を思い出すと少し切なくなるが。
「は、はぁい・・・今行きまーす・・・」
周りの視線を感じながら、栞里に近づく。
彼女はこそこそと手招きすると、使用禁止のケータイを取り出した。
いろいろなストラップがぶら下がっている。
その中のクマのぬいぐるみのつぶらな瞳と目があって、思わず目をそらす。
「ちょっと、これ見てよこれ・・・」
そう呟きながら、ワイチューブを探っている。
そして予想通り、例の動画を持ち出した。
視聴回数・2回。
見たのは俺と栞里の二人だけ。
「これ、君見た?」
「見た・・・ひどいよな」
「凜香ちゃんと喋った?」
「コンタクトしようと思ったんだけど、今朝はいろいろあってさ・・・スイマセン」
「まあ、別にしょうがないことだけどさ。私今日も塾で・・・」
「ま、また!?やっぱ頭いい人は大変なんだな」
「そ、そんな頭良くなんてないわよ!塾行って必死に努力してるからそう見えるだけで・・・ホントはすごく有痛性・・・」
「ゆ、ゆうつうせい?」
「もう、悲しいってこと!」
そんな単語が日常会話に出てくるだけで、俺としてはもう何とも言えない。
栞里はため息をつくと言った。
「そんな訳で、部活帰りかなんかでちょっと聞いてみてよ。ほら、私が話しかけても誰だよコイツ!?ってなるだけでしょ?」
「まあ、栞里のことは知ってると思うけど・・・そりゃ驚くわな。、、でも俺が話しかけても何ともならない気が・・・」
「大丈夫だって!じゃ、さっきも言ったけど塾だから!じゃね~!」
ぱたぱたといつものように廊下を駆けて行ってしまう。
___さて、凜香の部活が終わるまで、どう時間をつぶすか。
不意に、玲央のことを思い出した。
あいつも帰宅部だ。
ちょっと付き合ってもらえば・・・
そんな甘い考えを飛ばす。
玲央はまだ巻き込まないと決めていた。
正式な部活として部員になってくれたら、の話だ。
俺は、ポケットに入っていたメモを取り出す。
『矢野凜香さんが、虐めにあっています。どうか助けてください。お願いします』
はあ、とため息をつく。
・・・ふと思う。
この紙、誰が書いたんだ?
バスケ部員だろうか。
その時。
「ひぎゃああぁっ!!」
高い悲鳴が思いっきり飛び込んできた。
「うあああああ!?」
対する俺は無様に、床に尻餅をつく。
まあ、つかされたといっても過言ではない。
証拠に、上には華奢な女の子が乗っている。
「う・・・いた、た・・・す、すいませんすいません!すいません・・・・・・」
涙目になりながら、女の子はぱっと飛び退くと、パンパンとスカートを払った。
___何なんだこの子。
「ええ、と・・・望月さんですよね?あの・・・」
やっぱ俺、モテ期なんだろうか。
「凜香ちゃんについてお悩み相談した、清水と申しますっっ!!」
・・・違うらしい。
「あのっ、あの、、凜香ちゃんが、あの、、っ」
妙にキョドっている。
どうにも、俺と同じ匂いがする気がしてならない。
そして、この子・・・動画の端っこに居づらそうに縮こまっていた子だ、多分。
泣きそうに怯えていたので覚えている。
「バスケ部、辞めちゃうかもしれないんです・・・ッ!!」
「・・・え?」
突然告げられた言葉に仰天する。
清水は涙の溜まった瞳を、下に向けた。
___なんですとぉ!?
「あ、あの、凜香ちゃん・・・バスケが大好きだって言ってました。だからこんなことには負けないって言ってて・・・でも、最近揺らいできちゃったみたいで・・・春陽ちゃんたちも、ひどいですよね。凜香ちゃんが上手いからって嫉妬して・・・」
「う、え、、ああ、、」
「お願いです!望月さんって、凜香ちゃんの彼氏なんでしょ!?」
「はあああああ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げながら、後ろに30センチほど飛びずさる。
両手を超高速で動かしながら必死で弁解する。
「違うチガウちがう!!ただの幼馴染で・・・」
「そ、それでも!凜香ちゃんを止められるのは望月君だけだから!そういう訳で宜しく!じゃ!」
そう言ってぱたぱたと走り去っていく清水。
俺の頭の中には炎がたぎっていた。
___どいっつもこいつも同じようなことばっか言いやがってぇえええええ!!
全てを俺に押し付け!
俺にしかできないと!
適当なことばっか言って!
半分泣きそうになりながら、俺はよろよろと歩き出した。
だめだ、もう帰ろう。
凜香と喋れる気がしない。
そんで、、
女子って、怖ぇ・・・。
それしか頭に浮かばない俺は、手すりにつかまりながら階段を降りようとして。
女子の声が響いた。
「あれ?湊?どうしたの?」
なぜ、今、来る・・・?
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