第11話 湊の看破と美陽の思索
ダメージ修復不可能。
そんなレッテルが貼り付けてある、望月湊は家に帰っても放心状態であった。
「もう、ウザいったら!なによ、話してみれば?美陽様に!」
美陽がやけに胸を張って呼びかけているが、俺の耳には届かない。
なんだなんだ、自分は案外落ち込みが激しいタイプだったらしい。(今さら感)
「いや・・・もう、俺は寝る・・・おやすみ・・・」
「ちょ、まだ7時だよ!?ああもうだめだこりゃ・・・」
もう、誰か助けてくれ。
いや別に、これくらいなんのこっちゃという勇者も世の中には居るのであろう。
周りの大半は、まあ落ち込みすりゃしれ次の旅に出はじめるのだろう。
だが、もう俺のHPは真っ赤だ。
もっと人付き合いに慣れておくもんだった。
のほのほした幼馴染としか付き合ってなかったもんだから、こんな悲しい思いをしなければいけないのだ。
そしてなんなのだろうかあの動画は。
バスケ部がどうちゃらといった内容と、全く関係のなさそうな音だったじゃないか!
そう思うと怒りがこみあげてきて、俺はスマホを手に取った。
自室のベッドの上で寝転がりながら、片手操作する。
履歴。
【バスケ部員にムリヤリ告白させてみた!マジウケww】
ため息をつきながら、再生ボタンをタップする。
音量は最小だ。
すると例の喘ぎ声。
顔が真っ赤になるのを、またしても未然に防げなかった。
なんだよなんだよ、もう。
どうせ、しがない童貞だよ!
マイクに耳をあてる。
笑い声が聞こえてきた。
『あっはははは!』
『やばーい!!』
『ええっと、この動画を見て驚いちゃった人、挙手ぅ~!あはは、いっぱいいるだろうね~っ』
なぁにが挙手ぅ~!だ!!
どんどん自分が激越していくのが分かる。
お前のせいで、俺がどれほどのダメージを負ったと思ってるんだ!瀕死だぞ!?
そして、最高に嫌な予感がする。
この声、聴いたことがある。
俺に親切にしてくれた女の子。
バスケ部の。
顔が映った。
春陽。
「なんで・・・あいつ・・・っ」
信じられない。
残忍な笑みを浮かべる春陽が。
周りもみんなが笑っている。
笑っている。
嗤っている__
ぞわっと寒気が走った。
鳥肌が立っている。
『こんなこともうやめなって_!!』
凛とした声が響いた。
俺の意識を呼び戻す。
カメラがその声の主を映した。
まぎれもなく、凜香で。
椅子に座らされ、手足を拘束されている。
そこで気づく。
周りが全員バスケ部員だと。
『ああ!?』
俺の視点がどんどん凜香に近寄っていく。
撮影者春陽が、どんどん_
凜香の肩に、バスケットボールが投げつけられた。
『__っ』
『何言ってんだてめぇ!?ふざけやがって__』
同調の声が上がる。
スマホの画面が揺れる。
春陽の手元が震えているのかと一瞬思ったが、俺の手が震えているからだった。
___なんなんだ、こいつらは?何がしたい?凜香に何をしてほしい?わからない。
まったく理解ができない__
こんな動画を投稿して、問題になると考えないのだろうか?
そうだ。今すぐ通報しよう。それがいい_
だが、俺の手が止まる。
視聴回数__1回。
俺しか、見ていない。
なんだろう、この虚無感。
これは、遊びなのか?
俺には、ただバスケットボールを投げつけられる凜香を見ていることしかできないのだろうか。
そこでもう、思考が停止して。
俺は力なくスマホを放り投げることしかできないのであった。
***
<美陽side>
(お兄ちゃん・・・今度は何したんだろーっ?聞きたかったなー・・・でも簡単に言えないくらい落ち込んでたし・・・突っ込まない方がいいのかなぁー・・・なぁんて。でもやっぱ気になるぅー・・・)
美陽は人差し指を顎に当て、ひたすら模索する。
(振られたとか、そっち系かな。それとも、なんかドジを見られたとか・・・お兄ちゃんってほんとバカなんだから・・・お母さんに似た・・・、・・・・・・)
美陽は考えるのをやめた。
考えたくなかったから。
<両親>が、ひたすらに嫌いだったから。
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