第9話 バスケ部偵察

凜香は_大切な幼馴染だ。

口は悪いし波乱万丈だが_でもやっぱり。

大事なんだ。


その彼女に、危機が迫っているとしたら?


栞里に続き階段を下りていると、突然彼女が振り返った。


「なに考えてるの?」


「・・・へっ?」


「凜香ちゃんの事、だよね。好きなの?」


「え、、、ぅ、あ、、、っ!?な、なっ、、、そんな訳」


「なにキョドってんの・・・冗談だけど」


「へ、あ、ああ・・・」


妙に安心感を覚えつつも、心の中はパニック状態だ。

そんな風に見えていたのだろうか?

そんな勘違いをされていては、正直たまったもんじゃない。


「ち、違うから!そういうんじゃ・・・」


栞里は純真に笑う。


「分かったから。あ、ホイッスルが聞こえてきたね・・・早く早く!」


ぴょんぴょん跳ねながら先に階段を駆け下りていく栞里。

慌ててついていくものの、自分は階段というものがどうも苦手らしい。

かつてむかし、可愛いなあと思っていたある女の子の前で階段を転げ落ちたことがあるのだ。

あの女の子の唖然とした顔と、その後の、嘲弄はもう_


今でも記憶に焼き付いてしまった。(トラウマという)


その失敗を二度と繰りかえさないように、俺は細心の注意を払わなければならないのだ!


「ふぅ・・・うぉわっ!?」

「しぃ__っ!」


廊下を曲がった矢の先、栞里とぶつかってしまった。

顔が険しく、心なしか額に汗が浮いている。


「な、なんだ?」


「わ・・・私・・・あらぬものを見てしまったような気がする・・・」


「あ、あらぬもの?」


「ちょっと来てよ」


腕を引っ張られドキリとするも、そんな場合ではないと思い返す。

体育館を恐る恐る覗き込むと、女子バスケ部の姿が見えた。

凜香も、いる。

今はシュート練習、だろうか。

一人ずつ、リンクにボールをシュートしていく。


「ナイッシュー!」


「すごいじゃん春陽はるひ!」


えへへと笑ったその少女は__先ほど、栞里を呼び出してくれたその子だった。

女バスだったのか、知らなかった。

次は、凜香。

ドリブルから、華麗なシュート。

言っちゃ悪いが、春陽と呼ばれた少女よりも格段に上手い。

それだけ_凜香には才能がある、と俺は思っている。

小学校からの練習の賜物であるとも思いはするが。


「ねえ、感じない?」


「何を」


「違和感」


思わず栞里の横顔を見ると、その顔は緊張でか強張っていた。

___違和感?いわかん_


音が、無いのだ。

春陽がシュートを決めた時と、全然違う。

周りが静かすぎる。

空気を見ているように_存在さえ無視するように。


次の部員がシュートを決めると、歓声が上がった。

その姿を見て、凜香は肩を縮こまらせ_


「な、な__」


「ヤバい。なんか私、これはヤバい気がする…」


「だ、だよな。・・・ちょっと一回離れようぜ」


少し体育館から距離を取っても、ざわめきが耳に残る。

耳をふさぎたくなる衝動。


「なんで__なんで言ってくれないんだ、あいつ_ま、俺が頼りないっていうのもあると思うけどさぁ_!だけど、一応昔からずっと一緒に育ってきたのに・・・」


苦衷を感じながら呻くと、栞里は俺の肩をポンとたたいた。


「それだからこそ__凜香ちゃんは言えないんじゃないの?」


俺は_知っている。

どれだけあいつが、バスケを好きなのか。

どれだけ、熱中しているのか。

それなのに?


俺が思うに、あれだけじゃない。

あれ以外にも、凜香はもっとひどいことをされているのではないか。

誰にも言えず、苦しんでいるのではないか。


「今日はもう、帰ろう?」


栞里が静かに呟いて。

俺は頷き、家路を辿るしかないのだった。



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